不動産売買により既に所有権の移転がある結果、不動産登記法第二条第一号の仮登記をすべき場合に、売買予約を原因として同条二号の仮登記がなされても、右仮登記は順位保全の効力を有すると解すべきである。
不動産登記法第二条第一号によつて仮登記をなすべき場合に同条第二号によつてなされた仮登記の効力
不動産登記法2条,民法177条
判旨
不動産売買により既に所有権が移転している場合に、売買予約を登記原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされたとしても、その仮登記は順位保全の効力において何ら欠けるところはない。
問題の所在(論点)
実体上は既に売買が成立し所有権が移転している場合に、登記原因を「売買予約」とする「請求権保全の仮登記」(旧不動産登記法2条2号)がなされたとき、その仮登記に順位保全の効力が認められるか。
規範
不動産登記法(旧法2条)において、本来は所有権移転の登記原因が存在し、同法1号の仮登記(登記権利の移転等)をなすべき事案であっても、あえて売買予約等を原因とする同条2号の仮登記(請求権保全)の形式を用いたとしても、その登記は実体的な権利関係と合致する範囲において有効であり、順位保全の効力(不動産登記法上、後の本登記に順位を付与する効力)を失わない。
重要事実
被上告人は上告人との間で、買戻約款付売買契約に基づき不動産の所有権を取得した。しかし、当該不動産についてなされた仮登記は「買戻約款付売買」ではなく、「売買予約」を原因とする「所有権移転請求権保全の仮登記」の形式で行われた。上告人は、実態が売買予約ではない以上、予約完結の意思表示が欠けており所有権移転の効力は生じないと主張して、当該仮登記の効力を争った。
事件番号: 昭和30(オ)382 / 裁判年月日: 昭和32年9月27日 / 結論: 棄却
不動産に対する処分禁止の仮処分の登記嘱託書が、戦時登記特別手続令中改正勅令(昭和二〇年勅令第三九九号)第四条ノ二に基き申請書綴込帳に編綴されて仮処分登記の効力を生じた後、仮処分債務者がその不動産を甲に売渡したものであるときは、その後回復登記のため開始された新登記簿に、仮処分登記の移記が遺脱されたまま甲のため右売買による…
あてはめ
本件において、被上告人は買戻約款付売買により既に実体上の所有権を取得している。登記形式は売買予約による仮登記(旧法2条2号)という不正確な原因に基づいているものの、将来の本登記に向けた順位確保という目的において共通している。実体上の所有権移転が認められる以上、登記原因の不一致を理由に一律に無効とする必要はなく、当該登記には法的な順位保全の効力を認めるのが相当である。したがって、予約完結の意思表示がないことを理由とする抗弁は採用できない。
結論
売買予約を原因とする仮登記は、実体上の所有権移転が既に存在する場合には順位保全の効力を有する。本件上告は棄却される。
実務上の射程
実体上の権利関係(所有権移転)と登記原因(売買予約)が厳密に一致しない場合であっても、仮登記の順位保全効力を肯定する。司法試験においては、登記原因の齟齬があっても実体関係と符合すれば有効とする法理(登記の有効性の一般的要件)の応用例として、仮登記の文脈で活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)383 / 裁判年月日: 昭和32年9月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の処分禁止仮処分命令が登記嘱託書の綴込帳編綴により登記と同一の効力を生じた後、登記官の過誤等で当該登記が移記されず、又は登記簿が閉鎖されたとしても、既に生じた仮処分の対抗力は失われない。 第1 事案の概要:被上告人らはDから宅地を買い受け、移転登記請求権保全のため処分禁止仮処分を申請した。戦…
事件番号: 昭和33(オ)577 / 裁判年月日: 昭和36年6月9日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】不動産の買主は、所有権移転登記を経由していない限り、その後に同一不動産について売買予約に基づき請求権保全の仮登記を備えた第三者に対して所有権の取得を対抗できない。 第1 事案の概要:上告人A1はDに本件宅地を売却した。その後、DはEに贈与し、Eは被上告人に売却したが、いずれも登記を経由していなかっ…
事件番号: 昭和35(オ)94 / 裁判年月日: 昭和37年3月13日 / 結論: 棄却
金銭消費貸借に基づく債権担保の目的のために、債務者所有の建物につき、売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記がなされた後に金銭が授受されたとしても右仮登記は有効である。
事件番号: 昭和35(オ)469 / 裁判年月日: 昭和37年2月16日 / 結論: 棄却
仮登記後本登記をするまでの間に、仮登記義務者により本登記の目的たる権利と相容れない処分が行われ、これに基づく第三者の権利取得の登記がなされたとしても、右本登記が為された以上、右第三者の権利取得は否認され、その登記の抹消を求めることができる。(同旨、昭和三二年六月七日第二小法廷判決、民集一一巻九三六頁、昭和三二年六月一八…