判旨
抵当権の付随性に基づき、担保されるべき債務が消滅または発生していない場合には抵当権も消滅するため、特段の合意がない限り別個の債務を担保することはできない。
問題の所在(論点)
抵当権設定時に予定されていた当初の債務が弁済等により消滅している可能性がある場合において、当事者間に特段の合意がないまま、後発的に生じた別個の債務を当該抵当権の被担保債権として認めることができるか。
規範
抵当権は特定の債権を担保するために設定されるものであり(付随性)、担保対象として合意された債務以外の債務を当然に担保することはない。別個の債務を担保するためには、当事者間において当該債務を担保する旨の特段の合意が必要である。
重要事実
債権者Bと債務者Aとの間で、昭和18年に債権額2500円の抵当権設定登記がなされた。その後、不動産の明渡遅延に係る損害金債務等の発生が主張されたが、前提となる買戻しが実行されておらず、債務発生の余地がなかった。原審は、抵当債務の利息として支払われた金員がある一方で、別個の損害金債務等が累積・充当された結果として抵当債務がなお残存していると判断した。
あてはめ
本件では、当初の抵当債務2500円および利息に対し2099円余が支払われており、債務は相当程度消滅している。また、損害金債務については買戻しがなされていない以上、発生する余地がない。原審は、これら性質の異なる債務が当初の抵当債務と同一のものか、あるいは特段の合意によって担保されることになったのかを明らかにせず、漫然と債務の残存を認めており、抵当権の付随性および被担保債権の特定に関する論理に欠ける。
結論
抵当権の被担保債権の範囲は設定時の合意等により画定される。当初の債務と別個の債務が当然に担保されることはなく、特段の合意等の立証がない限り、抵当権の抹消登記請求や不存在確認請求は認められるべきである。
事件番号: 昭和30(オ)632 / 裁判年月日: 昭和33年5月9日 / 結論: 棄却
被担保債権である現存の債権および将来成立すべき条件付債権を、現存の貸金債権と表示してなされた抵当権設定登記であつても、当事者が真実その設定した抵当権を登記する意思で登記手続を終えた以上、これを当然に無効のものと解すべきではない
実務上の射程
抵当権の付随性を強調する基本判例である。答案上は、被担保債権の範囲や抵当権の消滅を論じる際、当初の合意内容と現実の債務発生状況を対比させ、別個の債務への『流用』を否定する論拠として活用する。また、理由不備を突く訴訟法的な文脈でも参照し得る。
事件番号: 昭和40(オ)362 / 裁判年月日: 昭和40年12月17日 / 結論: 棄却
賭博行為によつて生じた金銭債権のためにされた抵当権設定登記の抹消を請求するについては、民法第七〇八条は適用されないものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和35(オ)1470 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
右登記を無効として抹消を求めることはできない。(昭和三〇年(オ)第六三二号同三三年五月九日第二小法廷判決、民集一二巻九八九頁参照)。
事件番号: 昭和34(オ)321 / 裁判年月日: 昭和37年3月15日 / 結論: その他
貸金債務担保のために債務者所有の不動産に抵当権設定登記がなされた後、債務者においていつたん右債務の元利金を弁済し、さらに翌日同一債権者より同一金額を、弁済期の点以外はすべて旧債務と同一の条件で借り受け、これが担保として同一不動産につき抵当権を設定し、当事者間の合意によつて、旧債務についてなされてあつた前記抵当権設定登記…
事件番号: 昭和36(オ)405 / 裁判年月日: 昭和37年3月13日 / 結論: 棄却
貸金業を営む有限会社が営業行為としてなした金銭消費貸借は、商法施行法第一一七条(昭和二九年法律第一〇〇号による削除前)にいう商事にあたる。