貸金債務担保のために債務者所有の不動産に抵当権設定登記がなされた後、債務者においていつたん右債務の元利金を弁済し、さらに翌日同一債権者より同一金額を、弁済期の点以外はすべて旧債務と同一の条件で借り受け、これが担保として同一不動産につき抵当権を設定し、当事者間の合意によつて、旧債務についてなされてあつた前記抵当権設定登記を、そのまま後の抵当権のために流用した場合には、右登記が現実の権利状態に符合するかぎり、第三者に対する関係はしばらく措き、当事者間においては、債務者はみずから右流用登記の無効を主張するにつき正当の利益を有しない。
流用された抵当権設定登記について当事者が無効を主張できないとされた事例
民法177条,民法369条
判旨
消滅した抵当権の登記を後続の同一内容の債務のために流用する合意がある場合、登記が現在の権利関係と合致する限り、当事者間においてその無効を主張することはできない。
問題の所在(論点)
被担保債権の消滅により実体上消滅した抵当権設定登記を、後に発生した別の債権のために流用する合意(無効登記の流用)の有効性、および当事者間における無効主張の可否が問題となる。
規範
登記が不動産物権変動の過程を如実に反映していない場合であっても、現在の実体的な権利状態と符合する限り、その登記は有効なものとして取り扱われる。特に、当事者間で登記を流用する合意がなされた場合には、信義則上、または無効主張に正当な利益を欠くものとして、当事者間での無効主張は許されない。
重要事実
被上告人は、亡Dに対する500万円の債務を担保するため本件不動産に抵当権を設定し登記を経由したが、後に債務を完済し抵当権は消滅した。しかし、その翌日に同額の借入れ(弁済期等は変更)を行うにあたり、手続の簡略化のため、旧債務のために既になされていた抵当権設定登記を新債務のために流用することに合意した。その後、被上告人は流用合意の無効を理由に登記の抹消を求めた。
事件番号: 昭和41(オ)214 / 裁判年月日: 昭和42年2月23日 / 結論: 破棄差戻
通常の共有の場合、抵当権設定契約が共有者全員の同意に欠けるため、共有物自体について抵当権設定の効力を生じない場合でも、特段の事情のない限り、同意をしない共有者を除き、右抵当権設定契約をした共有者の各共有持分について抵当権を設定したものと解すべきである。
あてはめ
本件では、旧債務の借替えが行われたに過ぎず、抵当権の目的不動産も債権額も旧債務と同一である。このような状況下でなされた流用合意に基づき、登記は現在の実体的な抵当権の状態と合致しているといえる。したがって、第三者に対する関係は別として、合意の当事者である被上告人が自ら流用の無効を主張することは、正当な利益を欠くものと評価される。
結論
登記流用の合意がある以上、現在の実体的権利関係と符合する限り、当事者間においてその登記は有効であり、抹消請求は認められない。
実務上の射程
無効登記の流用に関するリーディングケースである。答案上は、不動産登記の「実体符合の原則」の現れとして論じる。射程については、本判決が「第三者に対する関係はしばらく措き」としている点に注意し、流用前に利害関係を持った第三者がいる場合には、不動産登記法上の公示の原則に基づき対抗できない余地があることを付記するのが一般的である。
事件番号: 昭和39(オ)321 / 裁判年月日: 昭和40年2月19日 / 結論: 棄却
昭和三三年一二月一六日の抵当権設定契約を原因とする登記の記載が昭和三三年一〇月一五日付抵当権設定契約に因るものとされていても、右の程度の相違は登記の無効をきたさない。
事件番号: 昭和36(オ)405 / 裁判年月日: 昭和37年3月13日 / 結論: 棄却
貸金業を営む有限会社が営業行為としてなした金銭消費貸借は、商法施行法第一一七条(昭和二九年法律第一〇〇号による削除前)にいう商事にあたる。
事件番号: 昭和33(オ)285 / 裁判年月日: 昭和34年9月22日 / 結論: 棄却
競売手続の無効を原因として現在の法律関係の存否確認を求めることなく単に右競売手続自体の無効確認を求めることは許されない。
事件番号: 昭和32(オ)121 / 裁判年月日: 昭和33年6月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機が、表示等により法律行為の内容とされた場合には、その動機に関する認識の不一致は「法律行為の要素の錯誤」に該当し、当該意思表示は無効となる。 第1 事案の概要:被上告人は、上告会社の社員から融資の約束を受けた。被上告人は、この融資を受けられることを前提(動機)として、本件抵当権設定契約…