賭博行為によつて生じた金銭債権のためにされた抵当権設定登記の抹消を請求するについては、民法第七〇八条は適用されないものと解するのが相当である。
不法な契約によつて生じた債権のためにされた抵当権設定登記の抹消請求と民法第七〇八条の適用の有無。
民法708条
判旨
賭博債務の担保として設定された抵当権については、不法原因給付の規定(民法708条)の適用はなく、債務者は抵当権設定登記の抹消を請求できる。抵当権の実行を阻止できる以上、被担保債権の存在しない抵当権の存続を許容すべきではないからである。
問題の所在(論点)
賭博債務という公序良俗に反する債務(不法原因)を担保するために抵当権を設定し、その登記を了した場合、設定者は民法708条の適用を免れて登記の抹消を請求できるか。
規範
賭博契約のような公序良俗に反する行為(民法90条違反)に基づき設定された抵当権については、民法708条本文(不法原因給付)の適用を制限し、登記の抹消請求を認めるべきである。なぜなら、抵当権者が権利を実行しようとした際、債務者は公序良俗違反を理由として被担保債権の不存在を主張し実行を阻止できるため、そのような実体のない担保権の登記を存続させることは法的に許されないからである。
重要事実
被上告人は、上告人らとの花札賭博の結果、28万円の負越しとなった。被上告人は上告人から要求されるままに借用証書を差し入れ、さらに支払の催促や抵当権設定の強要を受けたため、残金20万円の担保として自己所有の不動産に本件抵当権を設定し、その登記を経由した。その後、被上告人が抵当権設定登記の抹消を求めて提訴した。
事件番号: 昭和30(オ)372 / 裁判年月日: 昭和32年12月19日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】抵当権の付随性に基づき、担保されるべき債務が消滅または発生していない場合には抵当権も消滅するため、特段の合意がない限り別個の債務を担保することはできない。 第1 事案の概要:債権者Bと債務者Aとの間で、昭和18年に債権額2500円の抵当権設定登記がなされた。その後、不動産の明渡遅延に係る損害金債務…
あてはめ
本件における抵当権の設定は、賭博という公序良俗に反する行為から生じた債務を担保するものである。一見すると、登記という給付が完了しているため民法708条により返還請求が否定されるようにも思える。しかし、上告人が抵当権を実行しようとすれば、被上告人は民法90条違反による被担保債権の不存在を主張してこれを阻止することが可能である。そうであるならば、実行不可能な抵当権の登記だけを存続させる必要はなく、民法708条の適用を排除して抹消請求を認めるのが相当である。
結論
被上告人は本件抵当権設定登記の抹消を請求できる。
実務上の射程
不法原因給付の「給付」の意義に関連し、未登記の抵当権設定であれば「給付」に当たらない(未だ利得が終局的でない)とするのが通説的理解だが、本判例は『登記まで完了した場合』であっても、抵当権の性質(付従性・実行阻止の可能性)に着目して抹消請求を認めている。司法試験では、708条の「給付」の終局性を論じる際や、公序良俗違反の主張を認めるべき実効性の観点から引用すべき判例である。
事件番号: 昭和32(オ)420 / 裁判年月日: 昭和34年6月25日 / 結論: 棄却
主たる債務者の委託を受けた保証人が将来免責行為をしたときに取得すべき求償権を担保する為に、主債務の額を極度額とする根抵当権が設定されていた場合、その保証人は、主債務の弁済期の到来後は、まだ免責行為をしてなくても、先順位抵当権による競売手続において極度額まで配当要求をなし得る。
事件番号: 昭和26(オ)576 / 裁判年月日: 昭和32年9月5日 / 結論: 棄却
消費貸借上の貸主が、借主の窮迫、軽卒もしくは無経験を利用し、著しく過当な利益の獲得を目的としたことが認められない限り、利息が月一割と定められたという一事だけでは、この約定を公序良俗に反するものということはできない。
事件番号: 昭和30(オ)632 / 裁判年月日: 昭和33年5月9日 / 結論: 棄却
被担保債権である現存の債権および将来成立すべき条件付債権を、現存の貸金債権と表示してなされた抵当権設定登記であつても、当事者が真実その設定した抵当権を登記する意思で登記手続を終えた以上、これを当然に無効のものと解すべきではない
事件番号: 昭和32(オ)804 / 裁判年月日: 昭和36年12月1日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】表見代理の成立要件である「正当な理由」の判断において、代理人が本人の利益ではなく自己の債務決済のために権限を行使していると疑われる事情がある場合、相手方がその権限を信じたことに過失がないとはいえない。 第1 事案の概要:上告人(本人)の代理人と称するDは、被上告人(相手方)に対し、上告人のための金…