判旨
不動産の売買契約において、売主が移転登記申請に必要な書類を持参して登記所に出頭した事実は、債務の履行の提供として認められ、買主が代金の支払をしない限り遅滞の責任を負う。また、判決における明白な計算違いや誤記は、更正決定による訂正が可能であり、当然には判決の破棄理由とはならない。
問題の所在(論点)
1. 不動産売買において、売主が登記書類を持参して登記所に出頭したことは、同時履行の抗弁権を消滅させる「履行の提供」に該当するか。2. 判決文中の明白な計算違いや誤記は、上告による破棄理由となるか。
規範
不動産売買における登記義務の履行の提供(民法492条、533条)については、登記申請に必要な書類を完備して登記所に持参し、相手方の受領し得る状態に置くことをもって足りる。また、判決における単純な誤計算や誤記(民事訴訟法257条、旧194条)は更正決定の対象であり、判決自体の効力を左右する破棄事由には当たらない。
重要事実
不動産の売買契約に関連し、売主(被上告人)は移転登記手続を完了させるため、登記申請に必要な書類一式を携えて登記所に出頭した。一方、買主(上告人)は残代金の履行の提供を行わなかった。また、原審の判決において、家賃相当損害金の計算に約2,300円の計算違い(違算)があり、建物の面積表示にも「二二坪九合」を「二二坪五合」とする誤記が存在していた。
あてはめ
1. 登記義務の履行について、被上告人は必要書類を持参して登記所に出頭しており、これにより債務を履行するために必要な準備を完了して提供したものといえる。これに対し上告人は残代金の提供をしていないため、同時履行の抗弁は認められず、履行遅滞の責を免れない。2. 損害金の計算違いおよび面積の表示誤記は、いずれも客観的な資料(証拠および記録)に照らして明白な誤りであり、これらは更正決定によって訂正されるべき性質のものである。したがって、判決内容そのものを破棄する理由にはならない。
結論
売主の登記所出頭は履行の提供に当たり、買主は履行遅滞となる。また、判決の明白な誤記・誤算は更正決定で対処すべき事項であり、破棄理由とはならないため、上告を棄却する。
事件番号: 昭和30(オ)161 / 裁判年月日: 昭和32年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産売買代金の一部支払に代えて自己所有の不動産を提供し、その所有権移転を約した行為は、売買契約の履行の着手に当たり、手付解除を妨げる。代物弁済が成立していない場合であっても、客観的に履行行為の一部を構成する行為がなされれば履行の着手として認められる。 第1 事案の概要:買主(被上告人)は、売主(…
実務上の射程
司法試験において「履行の提供」の具体的事例として、登記申請書類の提供方法を論じる際の論拠となる。特に、売主側の準備状況として「登記所への出頭」が重要な認定要素になることを示す。また、判決更正と控訴・上告事由の区別に関する実務的指針としても機能する。
事件番号: 昭和32(オ)809 / 裁判年月日: 昭和34年6月25日 / 結論: 破棄差戻
家屋の売買で、残代金の支払と同時に家屋の引渡と所有権移転登記をする約定のあることに争のない場合において、買主が、敷地の使用につき地主の許諾を得ることを請合つた売主の義務に不履行のあることを主張して、残代金債務の遅滞を争つた場合、家屋の引渡と登記との履行の準備並びに提供の有無について釈明することなく、単に右主張の義務に不…