判旨
賃借人が無断模様替禁止特約に違反した場合であっても、当該模様替が建物の保存に重大な影響を及ぼさず、信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は同特約違反を理由に契約を解除することはできない。
問題の所在(論点)
賃貸借契約において無断模様替を禁止する特約がある場合、賃借人がこれに違反して模様替を行ったことをもって、直ちに賃貸借契約の解除事由となるか。信義則に基づく「信頼関係破壊の法理」が適用されるべきかが問題となる。
規範
建物の賃貸借における信頼関係は、信義則による衡平の観念によって制約を受ける。したがって、賃借人に無断模様替禁止特約に違反する行為があったとしても、その模様替の程度が建物の保存に重大な影響を与えず、賃貸借契約の継続に支障を及ぼすほどに信頼関係を破壊するものと認められない場合には、当該特約違反を理由とする解除権の行使は認められない。
重要事実
賃貸人(上告人)と賃借人(被上告人)との間の建物賃貸借契約には、無断で模様替をしない旨の特約が付されていた。賃借人はパチンコ遊戯場経営のため、賃貸人の承諾なく建物の改装(模様替)を実施した。当該建物は賃借人が順次修理増改築を繰り返した結果、全体として極めて不整形な状態であった。賃貸人は、この無断模様替が特約違反であり、信頼関係を裏切る不法行為であるとして、契約の解除を主張した。
あてはめ
本件における模様替は、パチンコ店経営のための改装であり、その程度は建物の保存上さしたる影響を与えるものではないと認められる。また、対象建物が既に修理増改築を経て不整形な状態にあった等の事実関係を参酌すれば、本件模様替が直ちに賃貸借契約の継続に支障を及ぼすような不当なものとはいえない。したがって、特約違反の事実はあるものの、信義則上の観点から、未だ解除権を発生させるほどの信頼関係の破壊があるとは認められない。
結論
本件模様替は賃貸借契約の継続に支障を及ぼすものとは認められないため、特約違反を理由とする賃貸人の請求は理由がなく、棄却されるべきである。
実務上の射程
無断転貸・譲渡(民法612条)以外の債務不履行(本件のような特約違反や賃料不払い等)においても、信頼関係破壊の法理が適用されることを示した。答案上では、特約違反という形式的な要件充足があっても、実質的な「信頼関係の破壊」の有無を、建物の保存への影響や利用目的等の具体的事実から検討する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和31(オ)1103 / 裁判年月日: 昭和33年1月14日 / 結論: 棄却
賃借家屋の一部についてなした無断転貸の期間が一ケ月に満たなかつたとしても、原判決認定の如き事情があるときは、賃貸人はこれを理由として賃貸借契約を解除しうるものと解すべきである。