判旨
賃貸借契約において、目的物が賃貸人の所有に属することや対抗力ある所有権を有することは、特約がない限り法律行為の要素とはならず、後発的に第三者が登記を備えても、既経過期間の賃貸借は当然に無効とはならない。
問題の所在(論点)
賃貸人が目的物の対抗力ある所有権を有していない場合、賃貸借契約の「要素」に錯誤があるといえるか。また、事後的に第三者が登記を備えた場合、遡及的に賃貸借が無効となるか。
規範
1. 他人の所有物についても賃貸借は有効に成立するため、目的物が賃貸人の所有であること、特に登記を備えた対抗力ある所有権であることは、当事者が特に要素として定めた場合を除き、賃貸借の要素(民法95条)には当たらない。 2. 賃貸借契約の存続期間中に、目的物につき第三者が登記を備えたことにより賃貸人が所有権を取得しなかったことになっても、賃借人が現実に使用収益をなした以上、既に経過した期間の賃貸借が当然に無効となることはない。
重要事実
賃借人(上告人)は、賃貸人(被上告人)から本件建物を昭和23年10月から2年間賃借し、現実に使用収益した。しかし、被上告人は本件建物の登記を具備しておらず、賃貸借期間終了後の昭和26年に訴外Dが保存登記を経由した。上告人は、被上告人が対抗力ある所有権を有していない以上、本件賃貸借には要素の錯誤(旧民法95条)がある、あるいは詐欺(民法96条)による取り消しが可能である等と主張し、契約の無効を争った。
あてはめ
本件において、上告人と被上告人の間で「賃貸人が対抗力ある所有権を有すること」を契約の要素とする特約があった事実は認められない。賃貸借の本質は使用収益の提供であり、上告人は契約期間中、現実に本件建物の使用収益を完了している。したがって、被上告人が登記を欠いていたことは、賃貸借の有効性に影響を及ぼす要素の錯誤とは評価できず、また第三者Dによる事後の登記具備も、既経過期間の使用収益という事実を覆して契約を無効とする理由にはならない。
結論
本件賃貸借契約は有効であり、要素の錯誤による無効や詐欺による取り消しは認められない。
実務上の射程
他人物賃貸借の有効性を前提に、所有権の存否や対抗力の有無が直ちに契約の有効性に影響しないことを示した。答案上は、賃貸人の権限瑕疵を理由とする錯誤主張(95条)に対し、賃貸借の本質(使用収益)から要素性を否定する論理として活用できる。ただし、使用収益が妨害された場合は履行不能の問題となり得る点に留意が必要である。
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