判旨
株主総会決議に基づき取締役会から配分を一任された代表取締役が自身の報酬額を決定した場合、それは有効であり、一度決定された報酬額は当該取締役の同意がない限り、取締役会といえども事後的に変更できない。
問題の所在(論点)
1. 取締役会から報酬の具体的配分を一任された代表取締役が、自らの報酬額を決定する行為が利益相反取引(自己取引)として制限を受けるか。 2. 代表取締役の一任に基づき一旦確定した報酬額を、会社側が事後に一方的に変更できるか。
規範
1. 株主総会が報酬総額を決定し、その具体的な分配方法を取締役会に一任した場合、取締役会から再委任を受けた代表取締役が自身の報酬額を決定することは、利益相反取引(旧商法265条、現行会社法356条1項2号)に該当せず有効である。 2. 報酬額が確定した後は、当該取締役の同意がない限り、会社側(取締役会等)が一方的にこれを変更することはできない。
重要事実
上告会社(被告)の臨時株主総会は、取締役及び監査役の報酬総額を40万円と決定し、分配方法を取締役会に一任した。これを受けて取締役会は、40万円のうち26万7000円を社長(被上告人・原告)と専務の報酬に充てることとし、その具体的な配分と支払方法を社長に一任する旨の決議を行った。社長は、当時の専務との関係性から合意形成が困難であったため、一任に基づき自身が受けるべき報酬額を決定した。しかし、後に会社側(取締役会)がこの決定の効力を争い、報酬額の変更を主張した。
あてはめ
1. 株主総会の決議により報酬総額が確定している以上、その範囲内での具体的な配分は、取締役会決議に基づき社長に委ねられた権限の行使である。社長がこの決議の趣旨に従って自身の報酬額を決定したことは、取締役会決議の本旨に反するものではなく、旧商法265条(利益相反取引)の制限に触れるものでもない。 2. 報酬額は、一任を受けた社長が正当な手続により決定した時点で確定的な権利となる。したがって、当該取締役(社長)の同意がない限り、取締役会決議をもってしても、既確定の報酬額を一方的に変更することは許されない。
結論
代表取締役による報酬決定は有効であり、会社側による一方的な報酬額の変更は認められない。上告棄却。
実務上の射程
会社法361条1項における「報酬等の決定」に関する重要判例。総額のみを株主総会で定め、具体的配分を取締役会(およびそこから再委任された代表取締役)に委ねる実務を肯定する。また、一旦具体的に確定した報酬債権は取締役の法的既得権となるため、不利益変更には当該取締役の個別的同意が必要であるという原則(報酬債権の具体的確定後の保護)を導く際に活用できる。
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