判旨
取締役に対する贈与金が全体として職務執行の対価である報酬の性格を有する場合には、名目を問わず会社法361条1項(旧商法269条等)の規定が適用される。株主総会の決議等を経ずになされた当該贈与は、会社利益のための止むを得ない支出であっても無効である。
問題の所在(論点)
取締役に対して贈与の名目で支払われる金銭が、会社法361条1項(旧商法269条等)にいう「報酬等」に該当するか。また、会社の利益のために必要不可欠な支出であれば、同条の適用を免れることができるか。
規範
取締役の受ける「報酬等」とは、名目のいかんを問わず、その職務執行の対価として会社から受ける一切の経済的利益を指す。これに該当する場合、お手盛りの防止及び会社財務の健全性確保という趣旨から、株主総会の決議等(定款の定め又は株主総会の決議)を要し、これに反する支給は無効となる。
重要事実
会社が取締役に対し、本件贈与金を支給した。上告人側は、当該贈与が「会社の利益のため止むを得ざるにいでた支出」であることを理由に、当時の商法269条(現在の会社法361条1項に相当)にいう報酬には当たらないと主張した。原審は、当該贈与金が全体として報酬の性格を有すると認定した。
あてはめ
本件贈与金は、実質的に職務執行の対価としての性格を有するものである。会社の利益のために必要であったという主観的・動機的事実があったとしても、その経済的利益が報酬としての性質を帯びる以上、法定の手続を回避することは許されない。したがって、株主総会の決議等を経ていない本件贈与は、同条に違反する強行法規違反の行為として評価される。
結論
本件贈与金は報酬としての性格を有するため、法定の手続を欠く支給は無効である。
実務上の射程
「報酬」の意義について、名目にとらわれず実質的に判断する実務上の基本判例である。会社法361条の「報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益」の解釈において、実質的な対価性があれば贈与や退職慰労金等の名目であっても同条の規律が及ぶことを示す際に引用する。
事件番号: 昭和51(オ)689 / 裁判年月日: 昭和51年11月26日 / 結論: 破棄差戻
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