判旨
債務名義が成立した後に、当事者間で当該債務名義に基づく請求権を行使しない旨の合意(不利用の合意)に加え、新たな賃貸借関係等の実体上の権利関係を創設する合意がなされた場合、その合意は有効であり、執行阻止の事由となる。
問題の所在(論点)
債務名義成立後になされた「債務名義を利用しない旨の合意(不利用の合意)」および「実体上の賃貸借関係を認める合意」の有効性と、それが執行力に及ぼす影響が問題となる。
規範
債務名義(認諾調書等)に表示された請求権につき、将来その満足を受けない(強制執行をしない)旨の不利用の合意、および当該権利関係に触れる実体上の新たな合意が当事者間になされた場合、その合意は私法上の契約として有効であり、債務名義の執行力ないし実体上の請求権を制限する効力を有する。
重要事実
上告人は、被上告人らに対し家屋明渡請求権を有する旨の認諾調書(債務名義)を得ていた。しかし、その後、上告人(須見)は被上告人らとの間で、将来係争家屋を被上告人らに賃貸すること、および右債務名義に表示された家屋明渡請求権についてはその満足を受けない(執行しない)こととする旨の合意を成立させた。後に上告人がこの合意に反して強制執行を試みたため、合意の有効性が争点となった。
あてはめ
本件では、単なる債務名義不利用の合意にとどまらず、係争家屋の賃貸借関係という実体上の権利関係を創設する合意がなされている。このような合意は当事者の真意に基づくものであり、民法94条の虚偽表示にも当たらない。したがって、債務名義の内容と抵触する新たな実体上の合意が成立した以上、上告人はもはや従前の債務名義に基づき明渡しを求めることはできず、当該合意の効力を認めた原審の判断は正当である。
結論
上告人と被上告人らとの間の不利用および賃貸借の合意は有効であり、債務名義に基づく強制執行は許されない。
実務上の射程
民事執行法35条に基づく請求異議の訴えにおいて、債務名義成立後の「不執行の合意」や「実体関係の変更」を異議事由として主張する際の根拠となる。単なる不執行の約束だけでなく、背後に賃貸借等の新たな実体法上の合意が存在する場合に、その有効性を肯定する有力な事案である。
事件番号: 昭和30(オ)230 / 裁判年月日: 昭和32年6月6日 / 結論: 棄却
一 公正証書が無権代理人の嘱託に基き作成された無効のものであるときは、債務者は、請求異議の訴を提起することができる。 二 無権代理人の嘱託に基き公正証書が作成された場合については、民法第一一〇条の準用はない。