判旨
加害行為により生じた外傷が、被害者の心因性反応によって神経性疾患として発症した場合、当該疾患と加害行為との間に相当因果関係を欠くと判断されることがある。特に、外傷自体が第三者の行為に基づくものであり、加害行為が単なる誘因に留まる場合には、賠償責任の範囲から除外される。
問題の所在(論点)
加害者の暴行(突き飛ばし)と、その後に生じた被害者の神経性疾患(心因性反応)との間に、民法709条に基づく相当因果関係が認められるか。
規範
不法行為に基づく損害賠償責任が認められるためには、加害行為と損害との間に相当因果関係が必要である。被害者が有する特殊な素因(心因的要因)により損害が拡大した場合、当該加害行為が損害発生の直接の原因ではなく、第三者の行為や被害者自身の心因的反応が介在し、加害行為が単なる誘因にすぎないと評価されるときは、相当因果関係が否定される。
重要事実
被上告人(加害者)が上告人(被害者)を突き飛ばして転倒させた暴行があった。上告人は神経性疾患を発症したが、原審の認定によれば、上告人が受けた外傷は被上告人の行為や転倒自体によって直接生じたものではなく、被上告人以外の第三者の行為に基づくものであった。また、上告人の神経性疾患は、当該傷害等を誘因として発生した心因性反応の一種であった。
あてはめ
本件では、被上告人の突き飛ばし行為により上告人が転倒した事実は認められるものの、上告人の外傷自体は第三者の行為によって生じたものであり、被上告人の行為との直接的な結びつきが薄い。また、上告人が訴える神経性疾患は、これらの事情をきっかけとして生じた心因性反応にすぎないと判断される。このように、損害の主たる原因が第三者の行為や被害者側の心因的要素にあり、加害行為が時間的・場所的に近接していても、単なる誘因としての役割しか果たしていない場合には、当該疾患による損害を被上告人の行為から通常生ずべき損害と評価することはできない。
結論
被上告人の所為と上告人の疾患との間には相当因果関係を欠くため、当該疾患に関する損害賠償請求は認められない。
実務上の射程
被害者の特殊な心因的要素が損害拡大に寄与した場合の因果関係を否定した事例である。後の「ル・マン事件(最判昭63.4.21)」等の素因減額の議論の前段階として、因果関係の存否そのものが争点となる事案(特に第三者の介在がある場合)でのあてはめの参考となる。
事件番号: 昭和36(オ)237 / 裁判年月日: 昭和37年8月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づく損害賠償請求において、加害行為の態様、被害の程度、および加害に至る経緯等の諸事情を総合して事案を認定し、治療費等の実損害の賠償を認めることは適法である。 第1 事案の概要:債務者Dの負債整理のため、債権者らが集まり動産の任意競売を行った。終了後の飲酒の席で、被控訴人を会計係に選任す…