判旨
賃借権に基づく妨害排除請求権が成立し得る場合であっても、個別の具体的事実関係に照らし、その権利行使が正当な利益を欠き、相手方に不当な不利益を与える場合には、民法1条3項により権利の濫用として許されない。
問題の所在(論点)
賃借権に基づく妨害排除請求権の行使が、民法1条3項の「権利の濫用」として否定されるか否か。
規範
権利の行使が、信義則に反し、または社会観念上許容される限度を超えて相手方に著しい不利益を与える場合には、民法1条3項により権利の濫用としてその効力を否定される。妨害排除請求権の行使についても、権利者が得べき利益と相手方が被る不利益との相関関係、および行使に至る態様等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。
重要事実
本件では、上告人が主張する賃借権に基づき、目的物の占有を妨げている者に対して妨害排除請求を行った。原審は、当該賃借権の存在を仮定したとしても、その権利行使を認めることが相当ではない特段の事実関係(詳細は本判決文からは不明)を認定した。
あてはめ
原審が認定した具体的な事実関係(詳細は本判決文からは不明)に照らせば、上告人が賃借権に基づく妨害排除請求を行うことは、実質的に正当な権利行使の範囲を逸脱している。このような状況下での請求は、相手方に対して不当な損害を強いるものであり、権利行使によって得られる上告人の利益と比較して社会的に相当性を欠くといえる。したがって、権利の濫用にあたるとした原審の判断は相当である。
結論
本件妨害排除請求権の行使は権利の濫用にあたり許されないため、上告を棄却する。
実務上の射程
賃借権が対抗力を備える等の理由で妨害排除請求が認められる局面であっても、請求の動機や態様、相手方の被る不利益が過大な場合には、最終的に民法1条3項を根拠として請求を阻止できることを示す。実務上、権利の存在が認められる場合の「最後の歯止め」としての権利濫用論の使い方を提示している。
事件番号: 昭和32(オ)659 / 裁判年月日: 昭和33年5月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】権利の行使が権利の濫用に該当するか否かは、確定された事実関係に基づき、客観的・総合的な諸事情を照らして判断される。本件においては、原審の認定した事実の範囲内では権利の濫用とは認められないと判断された。 第1 事案の概要:上告人らは、被上告人による本訴請求が権利の濫用にあたると主張して争った。原審は…
事件番号: 昭和26(オ)719 / 裁判年月日: 昭和28年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物収去土地明渡請求が権利の濫用に該当するか否かは、個別の事案における事実関係に基づいて判断される。本件のような事実関係の下では、当該請求が民法1条3項にいう権利の濫用に当たらないことは明白である。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人による本件建物の収去及び土地の明渡請求について争い、その請求が…
事件番号: 昭和33(オ)279 / 裁判年月日: 昭和33年7月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の明渡請求が権利の濫用(民法1条3項)に当たるか否かは、当該請求を認めることが社会通念上著しく正当性を欠くといえるか等の事実関係を総合考慮して判断すべきである。 第1 事案の概要:上告人(被告)に対し、被上告人(原告)が本件建物の明渡しを求めた事案である。原審において認定された事実関係の詳細…
事件番号: 昭和31(オ)627 / 裁判年月日: 昭和33年7月3日 / 結論: 棄却
土地改良法第八条第四項による書類の縦覧期間が法定の二〇日間に満たなくても、満一〇日間縦覧期間が存した以上、同法第一〇条第一項によつてした知事の土地改良区設立認可は当然無効ではない。
事件番号: 昭和37(オ)93 / 裁判年月日: 昭和38年5月24日 / 結論: 棄却
甲が乙より土地を賃借した後、右土地の所有権が乙、丙、丁と順次譲渡された場合において、丙は乙の実子であり、丁は乙、丙その他これと血族または姻族関係にある者の同族会社であつて、その営業の実態は乙の個人営業をそのまま引き継いだものであり、乙がその中心となつている等原判示のような事情(原判決理由参照)があるときは、甲の右賃借権…