判旨
行政処分が法令の拘束に反しない限り、裁量の性質(法規裁量・自由裁量)にかかわらず違法とはならない。また、行政機関内部の通達(選定基準)に反しても、直ちに当該処分が違法となるわけではなく、法令の趣旨に照らして判断すべきである。
問題の所在(論点)
1. 行政処分の取消訴訟において、裁判所は「法規裁量」か「自由裁量」かを区別して判示する必要があるか。 2. 行政部内の内部基準(通達)に違反した処分は、直ちに違法となるか。 3. 処分庁が訴訟係属中に自ら処分を一部取り消すことは許されるか。
規範
行政処分の適法性は、処分が法令の拘束に反するか否かによって決せられる。法規裁量と自由裁量の区別にかかわらず、処分が法令の拘束の範囲内であれば違法とはいえない。また、行政部内の権限行使の指針たる基準(通達)は直接の法的拘束力を持たないため、これに反したとしても、直ちに処分が違法となるものではなく、当該処分の内容が法令の趣旨に反するか否かによってその適法性を判断すべきである。
重要事実
上告人の所有する未墾地について、自作農創設特別措置法30条に基づき買収計画が樹立された。上告人は、当該土地が「開拓適地選定基準」に定める傾斜度(15度)を超えていること、また、食糧増産の必要性や経済的有利性の判断に誤りがあることを理由に、買収計画の違法を主張してその取消しを求めた。なお、訴訟係属中に被上告人(行政庁)は計画の一部を自ら取り消している。
あてはめ
1. 裁量の態様がどうあれ、処分が法令に違反しないことが認められれば適法であり、裁判所が裁量の性質を峻別して判示する必要はない。 2. 「開拓適地選定基準」は行政機関内部の指示に過ぎず、法令ではない。本件土地は傾斜が15度を超えるが、階段畑の構築により急傾斜の害を解消でき、甘藷栽培や果樹園に適しており、同法の趣旨である自作農創設と食糧増産に合致するため、基準違反があっても法令違反とはいえない。 3. 上告人が計画の取消しを求めている以上、行政庁が自ら一部を取り消しても上告人に不利益はなく、これを違法とする理由はない。
結論
本件買収計画は法令の趣旨に合致し適法である。内部基準違反や経済的有利性の比較は直ちに処分の違法を導くものではないため、上告を棄却する。
事件番号: 昭和27(オ)537 / 裁判年月日: 昭和29年3月9日 / 結論: 棄却
農地委員会は、未墾地の所有者が自ら開墾する意思を表明したからといつて、必ずしもこれに拘束されるものではなく、自作農創設特別措置法の趣旨目的に基き諸般の事情を考量し、もつとも適当と認めるところに従つて買収計画を定むべきかどうかを決することができる。
実務上の射程
裁量権の逸脱・濫用(行政事件訴訟法30条)の判断において、通達違反が直ちに違法とならないこと、および司法審査の対象はあくまで「法令適合性」であり、政策的な経済的合理性の比較には及ばないことを示す際に活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)209 / 裁判年月日: 昭和31年12月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】未墾地の買収にあたり土地が開墾に適するか否かの判断は行政庁の専権ではなく、客観的に開墾に適しない土地の買収は裁量権の限界を越えたものとして違法となる。 第1 事案の概要:政府が自作農創設特別措置法30条に基づき未墾地の買収を行った。当該土地は傾斜が急であり、地形、環境、地況等の諸条件に照らし、開墾…
事件番号: 昭和35(オ)307 / 裁判年月日: 昭和37年1月19日 / 結論: 棄却
当該未墾地を現状のままにしておくことが周囲の農地の利用にさまたげとならず、これを開墾して近隣の農地の利用のため必要とする特段の事情も認められないこと原審認定のごとき場合には、未墾地買収の必要性がない。
事件番号: 昭和32(オ)440 / 裁判年月日: 昭和36年5月26日 / 結論: 棄却
未墾地買収においては、買収目的地の実測面積の表示を欠いた買収計画であつても、買収目的地の特定性が動かない限り、違法ではない。
事件番号: 昭和27(オ)1100 / 裁判年月日: 昭和30年4月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁の裁量権の有無及び範囲は、根拠規定が客観的な判断基準を示しているか否かにより区別され、基準がない場合は政策的考慮に委ねられた自由裁量となる一方、基準がある場合はその基準への該当性に関し裁判所の審査が及ぶ。 第1 事案の概要:上告人は、自作農創設特別措置法(以下「法」という)に基づき、本件土地…