判旨
行政庁の裁量権の有無及び範囲は、根拠規定が客観的な判断基準を示しているか否かにより区別され、基準がない場合は政策的考慮に委ねられた自由裁量となる一方、基準がある場合はその基準への該当性に関し裁判所の審査が及ぶ。
問題の所在(論点)
行政庁の処分の適否について裁判所が審査しうる基準の有無、及び法律が定める特定の要件(法5条4号・5号)の性質に基づく裁量の範囲が問題となった。
規範
行政処分に係る根拠規定において、処分を行うか否かについて客観的な標準が示されていない場合には、当該処分は行政庁の政策的考慮に任されたもの(自由裁量)と解される。これに対し、規定に「相当とする」等の一定の標準が示されている場合には、行政庁に一応の裁量権は認められるものの、事実が当該標準に明白に該当するにもかかわらずこれに反する処分(又は不作為)を行った場合には、裁判所はこれを違法として取り消すことができる。
重要事実
上告人は、自作農創設特別措置法(以下「法」という)に基づき、本件土地の買収計画が違法であると主張した。法5条4号は指定の客観的標準を欠く一方、同条5号は「近く土地使用目的を変更するを相当とする農地」という標準を規定していた。原審は、本件土地が法にいう農地に該当し、かつ法5条各号(買収除外事由)のいずれにも該当しないと認定し、知事による買収処分を適法と判断したため、上告人がこれを不服として上告した。
あてはめ
法5条4号については、指定の可否に関し客観的標準が一切示されていないため、知事の政策的考慮に委ねられた完全な裁量行為であり、裁判所が適法性を判断すべき基準がない。これに対し、同条5号は「使用目的変更を相当とする」という標準を定めており、完全な自由裁量ではない。もっとも、本件においては、原審が認定した事実関係に基づけば、本件土地は法5条各号の除外事由に該当しない。したがって、知事がこれを除外せずに買収した判断に違法な裁量の逸脱・濫用は認められない。
結論
本件土地の買収処分は違法ではなく、上告を棄却する。
事件番号: 昭和26(オ)7 / 裁判年月日: 昭和27年4月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】未墾地買収において、複数の開拓適地が存在する場合の選択は農地委員会の裁量に属し、裁判所の審査は買収対象が法定要件を充足しているか否か、及び手続の適法性に限られる。 第1 事案の概要:自作農創設特別措置法に基づき、農地委員会が上告人所有の山林を未墾地として買収する処分を行った。これに対し上告人が、①…
実務上の射程
行政裁量において「自由裁量(公益的・政策的判断)」と「法規裁量(要件該当性の判断)」を区別する初期の考え方を示す。司法試験においては、裁量権の範囲を画定する際の「文言の検討」の重要性を示す例として参照される。特に、基準の有無により司法審査の密度が変化する点に注意が必要である。
事件番号: 昭和27(オ)67 / 裁判年月日: 昭和28年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本件農地が自作農創設特別措置法5条6号および同法施行令7条2号に規定する買収除外事由に該当するか否かが争われたが、最高裁は原審の事実認定を維持し、当該農地が同規定の対象に当たらないと判断した。 第1 事案の概要:上告人は、対象となった農地が自作農創設特別措置法5条6号および同法施行令7条2号に該当…
事件番号: 昭和34(オ)1181 / 裁判年月日: 昭和37年3月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自作農創設特別措置法に基づく農地の買収において、買収対象地の選択は行政庁の裁量に属し、地主に選択権はない。また、宅地化の予見可能性がない農地は同法5条5号の除外事由に該当しない。 第1 事案の概要:上告人の所有する本件農地に対し、国が自作農創設特別措置法に基づき買収処分を行った。これに対し上告人は…
事件番号: 昭和25(オ)220 / 裁判年月日: 昭和27年1月25日 / 結論: 棄却
自作農創設特別措置法附則第二項によつて買収計画が定められ、その後右附則第二項が削除され、同法第六条の二ないし五が加えられた場合において、裁判所が買収計画の当否を判断するについては、附則第二項によらなければならない。