農地委員会は、未墾地の所有者が自ら開墾する意思を表明したからといつて、必ずしもこれに拘束されるものではなく、自作農創設特別措置法の趣旨目的に基き諸般の事情を考量し、もつとも適当と認めるところに従つて買収計画を定むべきかどうかを決することができる。
所有者が自ら開墾する意思を表明した土地につき未墾地買収計画を定めることの適否
自作農創設特別措置法30条
判旨
未墾地買収計画の決定において、農地委員会は所有者の自ら開墾する意思の表明に拘束されず、法の趣旨に基づき諸般の事情を考量して判断できる。
問題の所在(論点)
農地委員会が未墾地買収計画を策定する際、所有者が自ら開墾する意思を表明している場合に、委員会はその意思に拘束され、買収計画を断念しなければならないのか。行政庁の判断権限の範囲と裁量の有無が問題となる。
規範
行政庁(農地委員会)が買収計画を策定するに際しては、関係者の意向に一律に拘束されるものではない。当該法律の趣旨・目的に基づき、諸般の事情を総合的に考量した上で、最も適当と認められる判断を下す広範な裁量が認められる。
重要事実
未墾地の所有者が自ら開墾する意思を表明していたにもかかわらず、農地委員会が自作農創設特別措置法に基づき、当該土地を対象とする未墾地買収計画を決定した事案である。所有者側は、自ら開墾する意思がある以上は買収計画を立てるべきではないとして、その適法性を争った。
事件番号: 昭和35(オ)307 / 裁判年月日: 昭和37年1月19日 / 結論: 棄却
当該未墾地を現状のままにしておくことが周囲の農地の利用にさまたげとならず、これを開墾して近隣の農地の利用のため必要とする特段の事情も認められないこと原審認定のごとき場合には、未墾地買収の必要性がない。
あてはめ
自作農創設特別措置法の趣旨目的は適正な土地利用と自作農の創設にある。農地委員会は、所有者の主観的な意思のみに拘束されるのではなく、地域の農業事情や開墾の現実的見込み、土地利用の効率性など、諸般の事情を客観的・総合的に考量して決定すべきである。本件において所有者が開墾の意思を示した事実は、考慮要素の一つにはなり得るが、委員会がそれと異なる結論を出したとしても、直ちに違法とはならない。
結論
農地委員会は所有者の意思に必ずしも拘束されず、諸般の事情を考量して買収計画を決定できる。したがって、本件買収計画の決定は適法である。
実務上の射程
行政庁の裁量権を認めた初期の判例の一つ。特定の私人の意向が行政処分の要件を直ちに左右するものではないことを示しており、裁量権の逸脱・濫用が問題となる場面で、目的・趣旨に照らした総合考慮の正当性を基礎付ける論理として活用できる。
事件番号: 昭和27(オ)1100 / 裁判年月日: 昭和30年4月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁の裁量権の有無及び範囲は、根拠規定が客観的な判断基準を示しているか否かにより区別され、基準がない場合は政策的考慮に委ねられた自由裁量となる一方、基準がある場合はその基準への該当性に関し裁判所の審査が及ぶ。 第1 事案の概要:上告人は、自作農創設特別措置法(以下「法」という)に基づき、本件土地…
事件番号: 昭和29(オ)890 / 裁判年月日: 昭和31年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分が法令の拘束に反しない限り、裁量の性質(法規裁量・自由裁量)にかかわらず違法とはならない。また、行政機関内部の通達(選定基準)に反しても、直ちに当該処分が違法となるわけではなく、法令の趣旨に照らして判断すべきである。 第1 事案の概要:上告人の所有する未墾地について、自作農創設特別措置法3…
事件番号: 昭和29(オ)256 / 裁判年月日: 昭和33年9月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】自作農創設特別措置法に基づく農地買収において、一旦定められた買収計画が異議により事実上取り消された場合、法定の買収指示請求がなくても、市町村農地委員会は都道府県農地委員会の指示や職権によって再度買収計画を策定することが可能である。 第1 事案の概要:上告人らが所有する農地について、法6条の2に基づ…
事件番号: 昭和32(オ)440 / 裁判年月日: 昭和36年5月26日 / 結論: 棄却
未墾地買収においては、買収目的地の実測面積の表示を欠いた買収計画であつても、買収目的地の特定性が動かない限り、違法ではない。