判旨
賃貸借契約の解約申入れにおける「正当の事由」は、賃貸人と賃借人の双方の諸般の事情を社会通念に照らして比較考量し、賃貸人が建物を必要とする程度が賃借人よりも高い場合に認められる。
問題の所在(論点)
旧借家法1条の2(解約申入れの正当事由)の判断において、賃貸人の所有権取得時期や所有権の帰属をどの程度重視すべきか、またその判断枠組みはいかなるものか。
規範
旧借家法1条の2(現借地借家法28条参照)にいう「正当の事由」の存否は、所有権者である賃貸人と賃借人の双方について、相互に平等の立場において諸般の事情を詳細に検討し、社会通念に照らして判断すべきである。具体的には、賃貸人が建物を必要とする程度が賃借人のそれを上回っているか否かにより決せられる。
重要事実
建物の所有権者かつ賃貸人である被上告人が、賃借人である上告人に対し、建物賃貸借契約の解約申入れを行った。上告人は、被上告人が所有権取得後間もなく解約を申し入れたこと等を理由に、正当事由の存在を争って上告した。原審は、双方の諸般の事情を詳細に検討した結果、解約申入れから約6か月後の口頭弁論終結時点において、被上告人が家屋を必要とする程度が上告人を上回ると判断した。
あてはめ
本件では、賃貸人が所有権を取得してから間もない時期の解約申入れであったが、裁判所は単に所有権の帰属を重視したのではない。賃貸人と賃借人双方の個別具体的な事情を「相互平等の立場」で比較考量している。その結果、被上告人(賃貸人)が建物を必要とする必要性が上告人(賃借人)の必要性を上回っていると認められた。これは、社会通念に照らした正当な利益衡量の結果といえる。
結論
被上告人の解約申入れには正当の事由がある。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
正当事由の判断における「相互平等の立場での比較考量」という基本姿勢を示した点に意義がある。答案上は、賃貸人・賃借人双方の建物使用の必要性(主観的事由)を核心としつつ、立退料等の補完的事由も含めた諸般の事情を総合考慮する際の指導原理として活用できる。
事件番号: 昭和36(オ)799 / 裁判年月日: 昭和38年11月1日 / 結論: 棄却
(省略)