判旨
既存債務の担保として手形を振り出す行為は、既存債務を消滅させて新債務を成立させる更改(民法513条)には該当せず、既存債務と手形債務が併存すると解するのが相当である。
問題の所在(論点)
既存債務の担保として手形が振り出された場合に、民法513条の更改(債務の要素の変更)が成立し、既存債務が消滅したといえるか。
規範
既存債務の履行を目的として手形が振り出された場合、それが「債務の履行に代えて」なされたものであれば更改(民法513条)となり得るが、単に債務の「担保として」振り出されたに過ぎない場合には、特段の事情がない限り更改には該当せず、既存債務と手形債務は重畳的に併存する。
重要事実
D石鹸株式会社は、被上告人(債権者)に対して売掛代金債務を負っていた。同社の代表取締役である上告人は、個人として当該債務を重畳的に引き受け、その担保として、被上告人宛てに額面合計102万5800円の約束手形を振り出した。その後、一部の弁済がなされたものの、残債務について上告人は更改の成立を主張して争った。
あてはめ
本件において、上告人は会社の債務を重畳的に引き受けた上で、その担保目的で約束手形を振り出している。これは「債務の履行に代えて」手形債務を成立させる意思、すなわち既存の売掛金債務を消滅させて新たな手形債務のみを存続させるという更改の合意があったとは認められない。したがって、債務の性質に変更はなく、既存債務と手形債務が併存している状態に留まる。
結論
本件は更改に該当しない。したがって、既存の売掛代金債務は消滅しておらず、上告人は引き続き債務を負担する。
実務上の射程
手形振出の法的性質(「支払のために」か「支払に代えて」か)を区別する際の基礎となる判例である。答案上では、更改の成否が問題となる場面で、当事者の意思が「担保」にあるのか「代物弁済的(消滅的)」にあるのかを事実認定する際の基準として活用できる。
事件番号: 昭和29(オ)403 / 裁判年月日: 昭和31年12月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】既存の債務に関し債務者が約束手形を振り出した場合、反対の事情がない限り、その支払を確保するために振り出されたものと推定され、債務の支払に代えて振り出されたものと認めるべきではない。 第1 事案の概要:売主である訴外Dと買主である上告人(被告)との間で甘藷澱粉の売買契約が締結された。上告人は、当該売…