判旨
既存の債務に関し債務者が約束手形を振り出した場合、反対の事情がない限り、その支払を確保するために振り出されたものと推定され、債務の支払に代えて振り出されたものと認めるべきではない。
問題の所在(論点)
既存の売買代金債務の履行に関連して約束手形が振り出された場合、その手形交付は「支払のために(履行確保)」なされたものか、「支払に代えて(代物弁済)」なされたものか。
規範
既存債務の履行に際して手形が交付された場合、当事者の意思表示として「支払に代えて(代物弁済)」交付されたのか、「支払のために(支払確保)」交付されたのかが問題となる。特段の事情がない限り、手形は既存債務の支払を確保するために振り出されたものと推定するのが相当であり、既存債務そのものを消滅させる効果(支払に代えて)は認められない。
重要事実
売主である訴外Dと買主である上告人(被告)との間で甘藷澱粉の売買契約が締結された。上告人は、当該売買代金債務の履行確保のため、被上告人(原告)を宛先とする約束手形を振り出した。さらに、上告人、被上告人、訴外Dの三者間において、当該手形の満期日に上告人が被上告人に対して直接代金を支払う旨の協定が成立した。上告人は、手形の交付が代金の支払に代わるものである旨を主張して争った。
あてはめ
本件において、上告人が振り出した約束手形は、売買代金債務の履行を確保する目的で発行されたことが事実関係から認められる。三者間の協定も、手形の満期日に直接代金を支払うという履行方法を定めたものに過ぎない。既存債務に関して手形が振り出された場合、特段の反対事情がない限り「支払確保」と推定されるべきであり、本件では手形交付によって既存の代金債務が消滅したと解すべき事情は存在しない。したがって、手形振出は支払のために行われたものと評価される。
結論
本件手形の振出は、既存の代金債務の支払を確保するために行われたものと推定されるため、手形交付のみをもって直ちに代金債務が消滅したとは認められない。
実務上の射程
手形授受の性質決定に関するリーディングケースである。答案上では、既存債務と手形債権の併存(支払のために)か、既存債務の消滅(支払に代えて)かを判断する際の推定規定として活用する。原則として「支払のために」と認定すべきであり、特段の事情(債務者の無資力や代物弁済の合意等)がない限り既存債務の存続を前提とした論理構成を採る際に使用する。
事件番号: 昭和35(オ)976 / 裁判年月日: 昭和37年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務の支払のために約束手形が交付された場合、特段の事情がない限り、それは「支払に代えて」ではなく「支払のために」なされたものと解され、原因債務は消滅しない。 第1 事案の概要:上告人は、破産会社に対する取引代金債務の支払を目的として、第三者(F)振出の約束手形を交付した。上告人は、これにより代金債…