判旨
判決において、当事者が主張した事実が主要な請求の原因そのものではなく、その存否を基礎づける事情(間接事実)に過ぎない場合には、裁判所が当該事実の存否について個別に判断を示す必要はない。
問題の所在(論点)
当事者が主要な権利関係の存否を基礎づける「事情」として述べた事実について、裁判所が理由中で個別に判断を示さないことは、理由不備等の訴訟法違反(民事訴訟法第312条第2項第6号等参照)に当たるか。
規範
判決書における理由の記載は、当事者の主張のうち、判決の結果に影響を及ぼす主要な争点(主要事実)について判断を示せば足りる。ある事実の主張が、より包括的な権利・関係の存否を基礎づけるための付随的な「事情」にすぎない場合、裁判所が主たる権利・関係の存否を判断した以上、当該「事情」の存否について特段の判示をしなくても理由不備等の違法とはならない。
重要事実
上告人は、本件係争家屋についての賃借権を有することを主張し、その具体的な事情として、当該家屋の敷地である「土地」の賃貸借関係についても陳述を行った。原審は、係争家屋自体の賃借権の存在を否定したが、土地の賃借権の存否については特段の判示をしなかったため、上告人が理由不備等を理由に上告した。
あてはめ
上告人による土地賃貸借に関する陳述は、本件係争家屋の賃借権という主要な権利の存否を基礎づける「事情」として述べられたものである。原審が、主要な争点である家屋賃借権の存在を否定した以上、その前提や背景事情に過ぎない土地賃借権の存否について個別に判断を明示しなかったとしても、審理不尽や理由不備の違法があるとはいえない。
結論
本件上告を棄却する。家屋賃借権の存否という主要な論点に判断を示した以上、その基礎となる土地賃借権の存否について判示しなくても違法ではない。
実務上の射程
本判決は、判決理由の記載程度について、主要事実に直結しない間接事実や補助事実については個別判断を要しないとする実務上の準則を確認するものである。答案上は、理由不備(民訴法312条2項6号)の成否を論じる際、主張事実の性質(主要事実か間接事実か)を区別する根拠として活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)353 / 裁判年月日: 昭和35年11月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】特定の権利(本件では建物所有権)が自己に帰属すると主張して請求を行う場合、裁判所が当該権利の発生原因(前主の所有権等)を否定し、対抗者に属すると認定したときは、理由不備の違法はない。 第1 事案の概要:上告人(原告)は、本件建物が元々Dの単独所有であり、DからE、Eから上告人へと順次買い受けたとし…