判旨
裁判所が判決において特定の証拠を証拠として摘示しつつもその証拠力を認めなかったと解される場合、あるいは当該証拠が主張事実の直接証拠ではなく間接証拠にすぎない場合には、その証拠力を排斥する理由を特段明示する必要はない。
問題の所在(論点)
判決書において、提出された証拠(書証)の証拠力を排斥するにあたり、その理由を詳細に判示する必要があるか。特に間接証拠にすぎない場合の判断基準が問題となる。
規範
判決書において、主張事実について直接証拠とはならず、間接証拠として提出されたにすぎない書証については、その証拠力を排斥するにあたり、特にその理由を明示することを要しない。また、判決に証拠としての摘示があり、裁判所がその証拠力を認めなかったと解されるときは、証拠を看過したものとはいえず、理由不備等の違法は存しない。
重要事実
上告人と被上告人との間で、本件家屋の賃貸借契約の成否およびその範囲が争われた。上告人は、昭和19年当時の敷金預り証(甲7号証)を提出し、以前の賃貸借関係が継続していることから、新たな契約は家屋全部について成立したものではないと主張した。原審は、この書証について個別に排斥する理由を判示することなく、上告人の主張を退ける事実認定を行ったため、上告人が理由不備および証拠看過を理由に上告した。
あてはめ
本件の甲7号証は、作成年月や文意に照らせば、主要事実(昭和27年頃の賃貸借成立の成否・範囲)を直接証明するものではなく、あくまで間接証拠にすぎない。また、原判決が証拠を摘示した上でこれと異なる事実認定を行っている以上、裁判所は当該証拠を検討した上でその証拠力を認めなかったものと解される。したがって、自由心証主義の範囲内として、個別に排斥の理由を述べる必要はないといえる。
結論
間接証拠の証拠力を排斥するについては、特段の理由を明示する必要はなく、原判決に理由不備の違法はない。
実務上の射程
司法試験の実務基礎科目や民事訴訟法において、判決書の「理由」の記載程度の限界を示す判例として重要である。主要事実に直結しない間接事実を推認させるにすぎない証拠については、判決書で一々理由を付さずとも違法とはならないという実務上の規範として位置づけられる。
事件番号: 昭和32(オ)1026 / 裁判年月日: 昭和35年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】原審による事実認定や証拠の取捨選択が適法に行われている限り、独自の見解に基づく事実認定の非難は上告理由とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、原審(控訴審)における事実認定に、証拠無視、審理不尽、および経験則・採証法則違反があるとして、理由不備または理由齟齬の違法を主張し上告した。しかし、具体…