判旨
裁判所が特定の証拠を採用しない場合において、判決理由の中でその不採用の理由を具体的に示さなければならない法的義務はない。また、証拠の信用性に関する評価や判断は事実審裁判所の専権に属する事項である。
問題の所在(論点)
裁判所が提出された証拠を採用しない場合に、判決理由中でその不採用の理由を明示する義務があるか。また、証拠の信用性の判断が上告理由となり得るか。
規範
裁判所が証拠を採用しない判断をする際、その理由を格別に明示することを要しない。また、証拠の取捨選択および証拠の評価(信用性の判断)は、事実認定を任務とする下級審の自由な心証(専権)に委ねられる。
重要事実
上告人は、原審において乙第6号証および証人Dの証言を提出したが、原審はこれらを「主張を認めるに足りない」として退けた。上告人は、原審が当該証拠を採用しない理由を具体的に示さなかったこと、および別個の証人Eの証言を信用したことは不当であるとして上告した。
あてはめ
原判決は、理由中において上告人の主張を認めるに足りる証拠はないと説示しており、提出された書証や人証を検討した上で排斥している。証拠を採用しない理由を個別に明らかにすべき法的根拠はなく、原審の措置は適法である。さらに、証人Eの証言の信用性に関する争いは証拠評価の問題であり、事実認定裁判所の専権に属するため、上告審で争うことはできない。
結論
裁判所は証拠の不採用理由を明示する義務を負わず、事実審の証拠評価は専権に属するため、本件上告は棄却される。
実務上の射程
民事訴訟における「理由不備」の主張を制限する射程を持つ。証拠の取捨選択自体は裁判所の裁量であり、判決書に全ての証拠に対する排斥理由を記載する必要がないことを確認する実務上の基本判例である。
事件番号: 昭和36(オ)288 / 裁判年月日: 昭和36年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】口頭弁論において証拠が提出された場合であっても、当事者がその結果について援用・演述を行わない限り、裁判所はこれを事実認定の資料とすることはできない。 第1 事案の概要:当事者が原審において鑑定書を提出し、それが口頭弁論の場に顕出されていた。しかし、記録によれば、当事者双方はその鑑定書の内容や結果に…