判旨
所有権に基づく物権的請求において、請求原因は原告が所有権を有する事実自体であり、その取得原因は攻撃方法としての主張にすぎない。したがって、第一審の売買から控訴審での売渡担保契約への取得原因の変更は、訴えの変更(請求原因の変更)には当たらず、弁論主義の範囲内の主張の変更として許容される。
問題の所在(論点)
所有権に基づく物権的請求において、所有権の「取得原因」の変更が、民事訴訟法上の「請求の変更」に当たるか。また、これを前提とした判決が処分権主義(申立て外の裁判の禁止)に反するか。
規範
所有権に基づく物権的請求の訴訟において、訴訟物たる権利(請求原因)は「原告が当該物件の所有権を有する事実」である。これに対し、その具体的な取得原因(売買、贈与、取得時効、担保契約等)は、請求を基礎づけるための攻撃方法としての事実関係にすぎない。したがって、取得原因の主張を変更することは、請求原因そのものの変更(訴えの変更)を意味するものではない。
重要事実
被上告人(原告)は、本件建物について所有権を有すると主張して、上告人(被告)に対し請求を提起した。第一審において、被上告人は所有権の取得原因を「売買」であると主張していた。しかし、第二審(控訴審)において、被上告人は取得原因を「売渡担保契約」に変更して主張した。原審は、この変更後の取得原因に基づき被上告人の所有権を認定し、請求を認容した。これに対し上告人は、不法な請求原因の変更であり、申立てのない事項について判決したもの(処分権主義違反)であるとして上告した。
あてはめ
本件における被上告人の請求原因は「本件建物につき所有権を有する事実」である。被上告人が第一審で「売買」と主張し、第二審で「売渡担保契約」と主張を切り替えた事象は、いずれも「自己に所有権がある」という同一の請求原因を基礎づけるための攻撃方法の変更にすぎない。このような取得原因の変更は、訴訟物(請求の趣旨及び原因)自体を入れ替えるものではないため、民事訴訟法上の訴えの変更の手続きを経る必要はなく、不法な変更とはいえない。また、裁判所が変更後の主張に基づき所有権を認定することも、申立ての範囲内での事実認定にほかならない。
結論
取得原因の変更は請求原因の変更(訴えの変更)ではなく、攻撃方法の変更にすぎない。原審の判断は適法であり、上告を棄却する。
実務上の射程
旧訴訟物理論を前提とする実務上の確立した基準である。答案上は、所有権に基づく請求において、取得原因の法的評価が当事者の主張と食い違う場面(例:売買と主張したが認定は贈与)などで、弁論主義の観点から「取得原因は攻撃方法にすぎない」旨を論述する際に引用する。また、訴えの変更(民訴法143条)の要否を判断する際の「請求の基礎」の同一性を論じる前提としても重要である。
事件番号: 昭和29(オ)464 / 裁判年月日: 昭和31年5月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】本件不動産の所有権移転登記が寄託の趣旨でなされたとの主張に対し、原審がそのような事実を認定していない以上、その前提を欠く論旨は上告理由として認められない。 第1 事案の概要:上告人は、本件不動産の所有権移転登記が「寄託」の意味でなされたものであると主張し、原判決の判断を不服として上告した。しかし、…
事件番号: 昭和28(オ)748 / 裁判年月日: 昭和30年5月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審における訴えの変更(請求原因の追加)が認められるためには、従前の請求とその基礎を同じくし、かつ、著しく訴訟手続を遅延させないことが必要である。 第1 事案の概要:上告人らが相手方に対して提起した訴訟において、控訴審段階で請求原因の追加が行われた。原審は、この追加が従前の請求とその基礎が同じで…
事件番号: 昭和33(オ)860 / 裁判年月日: 昭和35年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】請求の主要な争点である事実が認められない場合には、その余の事実関係を確定することなく直ちに請求を棄却することができる。裁判所が主要事実の存否につき証拠を検討し、これを認められないと判断した過程に自由心証の逸脱がなければ、判決に違法はない。 第1 事案の概要:上告人は被上告人に対し、本件家屋を買い受…