判旨
訴訟代理人が先行する口頭弁論での「否認」を撤回し、後の弁論でこれと矛盾する事実を認める陳述をした場合、当該陳述は裁判上の自白として成立する。当事者本人の供述と代理人の主張が抵触する場合のような特段の釈明権行使は、代理人による自白の撤回・成立の場面には不要である。
問題の所在(論点)
訴訟代理人が当初の「否認」を撤回して事実を認める陳述をした場合、それが裁判上の自白(民事訴訟法179条参照)となるか。また、その際に裁判所は釈明権を行使して主張の矛盾を質すべき義務を負うか。
規範
訴訟代理人がした事実に関する陳述は、それが相手方の主張する事実と一致し、かつ自己に不利益なものである限り、先行する否認の陳述を撤回してなされた「裁判上の自白」となる。この場合、裁判所は、当事者本人の供述との抵触を問題とする事案(旧民事訴訟法80条、現行民事訴訟法57条参照)とは異なり、直ちに自白の成立を認めることができ、特段の釈明を要しない。
重要事実
本件家屋の占有の成否が争点となった事案において、控訴代理人は第1回口頭弁論でAによる占有を「否認」していた。しかし、その後の弁論において、同代理人は一転してAの占有を認める趣旨の陳述を行った。これに対し、上告人は、代理人の主張が変遷した場合には裁判所は釈明をさせるべきである旨を主張して、自白の成立を争った。
あてはめ
本件における控訴代理人の陳述は、過去の否認を撤回した上で、相手方の主張事実を認めるものであり、まさに自白に該当する。上告人が援用する「本人尋問での供述と代理人の主張が抵触する場合」の判例は、本人の意思と代理人の訴訟行為が矛盾する局面に関するものであり、代理人が自ら主張を修正して自白を行う本件には適切ではない。したがって、代理人の後論による陳述によって自白が成立したと判断した原審の措置に違法はない。
結論
訴訟代理人による否認の撤回と事実の承認は、有効な裁判上の自白となる。本件上告は棄却される。
実務上の射程
訴訟代理人の行為の法的効果(民訴法55条以下)および自白の成立に関する判例である。代理人は本人に代わって一切の訴訟行為を行う権限を有するため、代理人自身による主張の変遷は、撤回と新たな自白として構成される。本人が法廷で矛盾した発言をした場合にのみ釈明義務を認める判例法理との「対象の違い」を明確に区別して論じる際に有用である。
事件番号: 昭和32(オ)111 / 裁判年月日: 昭和34年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所に対する自白(裁判上の自白)が成立した場合、その撤回は原則として許されず、撤回を認めるべき特段の事情がない限り、裁判所は自白された事実を基礎として裁判しなければならない。 第1 事案の概要:被上告人が、昭和29年1月に上告人(家屋所有者および敷地所有者の代理人)との間で家屋および敷地を代金3…