判旨
裁判所に対する自白(裁判上の自白)が成立した場合、その撤回は原則として許されず、撤回を認めるべき特段の事情がない限り、裁判所は自白された事実を基礎として裁判しなければならない。
問題の所在(論点)
当事者が裁判手続において相手方の主張事実を認める陳述をした場合、その陳述は「裁判上の自白」として後の撤回が制限されるか。
規範
当事者が相手方の主張する事実を認める陳述(裁判上の自白)をした場合、当該事実について証拠調べを要することなく裁判の基礎としなければならない(不要証効)。また、一度なされた自白については、原則としてこれを任意に撤回することはできず、反真実かつ錯誤に基づく場合などの特段の事情がない限り、撤回は認められない(拘束力)。
重要事実
被上告人が、昭和29年1月に上告人(家屋所有者および敷地所有者の代理人)との間で家屋および敷地を代金360万円で買い受ける契約を締結したと主張したのに対し、上告人は第一審の準備手続においてこの事実を認める陳述をした。しかし、後に上告人はこの自白を撤回し、売買契約の成立等を争った。
あてはめ
上告人は、被上告人が主張する売買契約締結の事実について、第一審の準備手続において認める旨の陳述をしており、これは裁判上の自白に該当する。自白が成立した以上、上告人が後にこれを撤回しようとしても、撤回を正当化する特段の事情(自白が真実に反し、かつ錯誤に基づいたこと等)が認められない限り、その撤回は許されない。本件では、原審が認定した事実関係に照らし、撤回を認めるべき事由は認められないため、自白の拘束力が維持される。
結論
上告人の自白撤回は認められず、自白にかかる事実に基づき売買契約の成立を認めた原判決の判断は正当である。
実務上の射程
準備手続における陳述であっても裁判上の自白としての効力を有すること、および一度成立した自白の撤回には厳格な制約があることを示す。実務上は、自白の撤回を主張する際には「反真実」かつ「錯誤」の立証が必要となる。
事件番号: 昭和32(オ)728 / 裁判年月日: 昭和35年7月5日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白を撤回する場合、必ずしも明示的に真実反する旨および錯誤に基づく旨を主張・立証することを要せず、自白と相容れない事実を主張し、かつその事実が証明された場合には、自白は黙示的に取り消されたものと解するのが相当である。 第1 事案の概要:上告人は第一審において、本件家屋を被上告人から賃借した…