判旨
当事者が自己に不利益な事実を先行的に陳述しても、相手方がこれを援用する前であれば、当該陳述を自由に訂正または撤回することができる。相手方が訂正・撤回後に当該事実を援用しても、裁判所を拘束する先行的自白は成立しない。
問題の所在(論点)
当事者が相手方の主張に先立って自己に不利益な事実を陳述する「先行的自白」において、相手方が援用する前に当該陳述を撤回した場合、なお自白としての拘束力が生じるか。
規範
自白の裁判上の拘束力(民訴法179条参照)が発生するためには、当事者の一方が自己に不利益な事実を陳述し、かつ相手方がこれを援用することが必要である。先行的にされた不利益な陳述は、相手方がこれを援用して自白が成立するまでの間は、原則として自由に訂正または撤回することが可能である。撤回された後に相手方が援用しても、もはや先行的自白としての効力は生じない。
重要事実
上告人の先代Dが本件土地・建物の売買に関し、金員借用のために印鑑を預け、結果として訴外Gから借財した旨の、上告人にとって不利益ともいえる事実を第1審で先行的に陳述した。しかし、相手方である被上告人がこの陳述を援用しないまま、上告人は原審の口頭弁論冒頭で準備書面を陳述して当該主張を訂正撤回した。被上告人はその直後に当該訂正に異議を述べ、上告人の訂正前の主張事実を援用すると主張した。
あてはめ
本件において、上告人は自己に不利益な事実を陳述したが、相手方である被上告人がこれを援用したり認めたりする前に、口頭弁論において適法に当該主張を訂正・撤回している。被上告人が援用を試みたのは、上告人が主張を訂正・撤回した後であり、この時点では既に撤回対象となった陳述は存在しない。したがって、撤回された陳述を後から援用しても、裁判所を拘束する自白(先行的自白)が成立したということはできない。
結論
上告人は相手方が援用する前に不利益な陳述を訂正・撤回したため、先行的自白は成立せず、裁判所はその陳述に拘束されない。
実務上の射程
先行的自白の成立時期を「相手方の援用時」と解する判例であり、援用前であれば無条件で撤回できることを示した。答案上は、自白の撤回の可否が問題となる場面で、相手方の援用の有無を確認し、援用前であれば「自白が未だ成立していない」ため撤回制限の法理(反真実・錯誤)を検討するまでもなく自由に撤回できるという論理で活用する。
事件番号: 昭和32(オ)941 / 裁判年月日: 昭和34年9月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白を撤回するためには、自白が真実に反することの証明が必要であるが、提出された証拠によっても自白が真実に反すると推認できず、かつ真実に反することが裁判所に顕著であるともいえない場合には、自白の撤回は認められない。 第1 事案の概要:本件係争家屋の所有権等に関する事実関係について、上告人が裁…