判旨
裁判上の自白を撤回する場合、必ずしも明示的に真実反する旨および錯誤に基づく旨を主張・立証することを要せず、自白と相容れない事実を主張し、かつその事実が証明された場合には、自白は黙示的に取り消されたものと解するのが相当である。
問題の所在(論点)
裁判上の自白の撤回にあたり、自白が真実に反し錯誤に基づくものであることを明示的に主張・立証する必要があるか。また、自白と抵触する事実を主張・立証した場合に、黙示的な撤回を認めることができるか。
規範
裁判上の自白の撤回が許されるためには、原則として自白が真実に反し、かつ錯誤に基づいたものであることを要する。もっとも、撤回の意思表示は明示的になされる必要はなく、従前の自白と相容れない事実を主張し、かつ当該反する事実について証明がなされた場合には、従前の自白は黙示的に取り消されたもの(暗黙の取消し)と解すべきである。
重要事実
上告人は第一審において、本件家屋を被上告人から賃借した旨の自白をしたが、控訴審において、本件家屋の賃借人は上告人の父であると主張し、従前の自白と抵触する主張を行った。上告人は、この新主張を認めるに足りる立証を試みたが、原審(控訴審)は、自白が真実に反し、かつ錯誤に出た旨の主張・立証がないことを理由に、自白の撤回を認めず、自白が依然として有効であると判断した。
あてはめ
本件において上告人は、控訴審にて「賃借人は父である」という自白と相容れない事実を主張し、かつその事実を認めるに不可能ではない立証を行っている。このような場合、必ずしも明示的に「自白は真実に反し錯誤に基づく」と主張・立証せずとも、当該反する事実が証明されれば、第一審における自白は暗黙に取消されたものと解するのが相当である。したがって、単に錯誤等の明示的な主張がないことのみをもって自白の撤回を認めなかった原審の判断は、法令の解釈を誤り審理を尽くさない違法がある。
結論
自白と相容れない事実の主張および証明があれば、明示的な錯誤等の主張・立証がなくとも自白の黙示的な取消しが認められる。原判決を破棄し、差戻す。
実務上の射程
自白の撤回要件(真実反・錯誤)の緩和法理として重要である。実務上、先行する自白を否定する事実を主張・立証することで、いわゆる「暗黙の取消し」を認める余地を広げる判例である。ただし、反する事実の『証明』が要件となる点に注意が必要である。
事件番号: 昭和32(オ)111 / 裁判年月日: 昭和34年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所に対する自白(裁判上の自白)が成立した場合、その撤回は原則として許されず、撤回を認めるべき特段の事情がない限り、裁判所は自白された事実を基礎として裁判しなければならない。 第1 事案の概要:被上告人が、昭和29年1月に上告人(家屋所有者および敷地所有者の代理人)との間で家屋および敷地を代金3…
事件番号: 昭和38(オ)527 / 裁判年月日: 昭和39年2月11日 / 結論: 棄却
「一定の日に賃貸借更新拒絶の通知がなされた」旨の相手方の主張を認める旨陳述した後、「別の日に更新拒絶の通知をした」旨陳述しても、後者の陳述が前者の陳述と相俟つて二度にわたり、それぞれ別個の通知をしたという事実関係を表明する趣旨であるときは、前者の陳述が裁判上の自白にあたるとしても、後者の陳述は自白の撤回にはならない。