自白の撤回が許されないとされた事例。
判旨
裁判上の自白の取消しが認められるためには、自白が真実に反し、かつ、錯誤に基づいたものであることを要する。本件では、鑑定結果が自白した賃料額を下回るというだけでは、直ちに自白が真実に反し錯誤によるものとはいえないと判断された。
問題の所在(論点)
裁判上の自白において、鑑定結果が自白内容(価格)と異なる場合に、直ちに「自白が真実に反し、かつ、錯誤に基づくこと」が認められ、自白の取消しが可能となるか。
規範
裁判上の自白が成立した場合、当事者はこれを取り消すことができない。ただし、その自白が真実に反し、かつ、錯誤に基づいたものであることを証明したときは、その取消しが認められる。
重要事実
上告人(被告)は、第一審において本件家屋の賃料相当額が月額5,000円である旨の自白をした。しかし、原審における鑑定の結果、賃料の鑑定額が当該自白の額よりも低かったため、上告人は当該自白は真実に反し錯誤によるものであるとして、自白の取消しを主張した。一方で、記録によれば上告人本人は本件家屋の一部を第三者に月額8,000円で転貸し、現実に収益を得ていた事実が存在した。
あてはめ
上告人は、鑑定額が自白した月額5,000円より低いことを理由に取消しを主張する。しかし、上告人自身が本件家屋の一部について月額8,000円という、鑑定額や自白額を上回る多額の収益を現実に収得している事実に照らせば、月額5,000円という自白が必ずしも「真実に反する」とはいえず、また「錯誤によるもの」とも断定できない。したがって、単に鑑定結果が自白価格を下回るという一事をもって、自白の取消要件を満たすものとは解されない。
結論
自白の取消しは認められず、上告は棄却される。鑑定結果と自白の内容に乖離があるだけでは、直ちに自白が真実に反し錯誤に基づいたものとはいえない。
実務上の射程
自白の取消要件(真実反転・錯誤)の厳格さを確認する事例である。実務上、価格や賃料等の評価的要素を含む事実についても、自白の拘束力が生じ得ることを前提に、その取消しには客観的事実(実際の収益状況等)との矛盾を具体的に立証する必要があることを示している。
事件番号: 昭和32(オ)728 / 裁判年月日: 昭和35年7月5日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白を撤回する場合、必ずしも明示的に真実反する旨および錯誤に基づく旨を主張・立証することを要せず、自白と相容れない事実を主張し、かつその事実が証明された場合には、自白は黙示的に取り消されたものと解するのが相当である。 第1 事案の概要:上告人は第一審において、本件家屋を被上告人から賃借した…