判旨
賃貸借契約における禁止事項である「容易に収去し難き本建築」の意義は、契約締結に至る経緯や建物の目的、既に存した建物の構造等を総合して解釈すべきである。当初の契約後に作成された書面の条項であっても、既存の建物と同程度の構造を有する建物の建築は、当該禁止事項に抵触しないと解するのが相当である。
問題の所在(論点)
賃貸借契約証書に定められた「容易に収去し難き本建築」の禁止条項が、契約締結前または証書差し入れ前に既に建築されていた建物と同程度の構造を有する建物の建築に対しても適用され、契約解除事由となるか。
規範
契約条項の解釈にあたっては、文言のみならず、契約締結の目的、当事者間の合意の経緯、および契約に関連して作成された書面の授受の時期・背景を総合的に考慮し、当事者の真意に即して判断すべきである。特に「容易に収去し難き本建築」の禁止条項については、契約当初から予定されていた建物の種類・構造や、当該条項が合意される前に既に存在していた建物の実態を基準として、その射程を限定的に解釈することが許容される。
重要事実
被上告人(賃借人)は、昭和21年9月、食堂経営のための木造家屋建築目的で上告人(賃借人)から土地を借り受けた。当初の合意では建物の種類・構造に特段の制限はなかった。被上告人は店舗兼住宅等を建築して営業を開始したが、その後の昭和23年4月、上告人に対し「容易に収去し難き本建築」を禁止する旨の条項(本件第2条)を含む賃貸借契約証書を差し入れた。その後、被上告人が追加で建築した建物が当該条項に抵触するとして、上告人が解除権を行使し、土地明け渡しを求めた。
あてはめ
本件では、賃貸借契約の当初の目的が食堂経営のための木造家屋建築にあり、期間も延長が予定されていた。本件第2条の禁止条項を含む契約証書は、既に被上告人が店舗等を建築し営業を開始した後に差し入れられたものである。このような経緯に照らせば、同条にいう「容易に収去し難き本建築」とは、少なくとも当該証書の差し入れ前に既に存在していた建物と同一程度の種類・構造を有する建物を包含しないと解するのが当事者の合理的な意思に合致する。被上告人が後に建築した建物は、既存建物と同一程度の構造であると認められるため、本件第2条の禁止事項には抵触しない。
結論
本件建物の建築は禁止条項に違反せず、上告人による解除権の成立は否定される。
事件番号: 昭和33(オ)518 / 裁判年月日: 昭和35年9月20日 / 結論: 棄却
一 借地法第一〇条の建物買取請求権が行使された場合、土地賃貸人は、特段の事情がないかぎり、右買取請求権行使以前の期間につき賃料請求権を失うものではないけれども、これがため右期間中は建物取得者の敷地不法占有により賃料相当の損害を生じないとはいい得ない。 二 借地法第一〇条の建物買取請求権が行使された後、建物取得者は買取代…
実務上の射程
契約書の文言が抽象的または包括的であっても、契約締結の経緯や先行する事実状態(既に建物が存在していた等)を証拠として、その文言の射程を限定的に解釈する際の手法として有用である。特に、契約の途中で差し入れられた一方的な書面の解釈において、従前の合意内容を維持する方向での解釈指針として機能する。
事件番号: 昭和31(オ)258 / 裁判年月日: 昭和32年11月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】催告期間内に「本旨に従う履行の提供」がなされない限り、解除権の発生を妨げることはできず、期間経過後の履行提供は解除の効力を左右しない。また、特段の事情がない限り、有効な催告に基づく解除権の行使は権利の濫用には当たらない。 第1 事案の概要:上告人は債務の履行を怠り、被上告人から相当期間を定めた催告…
事件番号: 昭和26(オ)719 / 裁判年月日: 昭和28年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物収去土地明渡請求が権利の濫用に該当するか否かは、個別の事案における事実関係に基づいて判断される。本件のような事実関係の下では、当該請求が民法1条3項にいう権利の濫用に当たらないことは明白である。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人による本件建物の収去及び土地の明渡請求について争い、その請求が…
事件番号: 昭和35(オ)699 / 裁判年月日: 昭和37年7月6日 / 結論: 棄却
戦災都市における建築物制限に関する法令の施行により普通建物の建築が許されていなかつた当時における借地法第二条の適用を受ける建物所有を目的とする借地契約成立の事実を認定することはさまたげない。
事件番号: 昭和47(オ)90 / 裁判年月日: 昭和51年6月3日 / 結論: 棄却
(省略)(最高裁昭和三九年(オ)第一四五〇号同四一年四月二一日第一小法廷判決・民集二〇巻四号七二〇頁参照)