一 借地法第一〇条の建物買取請求権が行使された場合、土地賃貸人は、特段の事情がないかぎり、右買取請求権行使以前の期間につき賃料請求権を失うものではないけれども、これがため右期間中は建物取得者の敷地不法占有により賃料相当の損害を生じないとはいい得ない。 二 借地法第一〇条の建物買取請求権が行使された後、建物取得者は買取代金の支払を受けるまで右建物の引渡を拒むことができるが、これにより敷地をも占有するかぎり、敷地占有に基く不当利得としてその賃料相当額を返還する義務がある。
一 建物取得後借地法第一〇条の買取請求権行使までの間における敷地不法占有と損害の有無。 二 借地法第一〇条の買取請求権行使後における敷地占有と不当利得の成否。
借地法10条,民法709条,民法703条
判旨
賃借権の無断譲渡があった場合でも、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、民法612条2項に基づく解除権は発生しない。また、建物買取請求権行使後も建物の占有を継続し敷地を占有する者は、敷地占有に基づく不当利得として賃料相当額を返還する義務を負う。
問題の所在(論点)
1. 賃借権の無断譲渡において、使用収益の方法に大差がない場合に民法612条2項の解除が制限されるか(信頼関係破壊の法理の適用範囲)。 2. 建物買取請求権行使後の建物留置に伴う敷地占有について、不当利得返還義務を負うか。
規範
1. 賃借権の譲渡・転貸が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、民法612条2項に基づく解除は認められない。使用収益の方法に大差がないことのみをもって直ちに背信性が否定されるわけではなく、やむを得ない事情や社会通念上恕すべき事情が必要である。 2. 建物買取請求権(借地法10条、現借地借家法13条)の行使により敷地賃貸借が消滅した後も、建物の代金支払があるまで建物を留置して占有を継続する場合、その敷地占有による利益は不当利得として賃料相当額を返還すべきである。
事件番号: 昭和25(オ)140 / 裁判年月日: 昭和28年9月25日 / 結論: 棄却
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用または収益をなさしめた場合でも、賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない本件の如き特段の事情があるときは、賃貸人は民法第六一二条第二項により契約を解除することはできない。(少数意見および補足意見がある。)
重要事実
土地賃借人である訴外Dモータースが、賃貸人(上告人)の承諾を得ることなく本件土地上の建物とともに賃借権を譲受人(被上告人)に譲渡した。賃貸人は無断譲渡を理由に賃貸借契約を解除し、建物の収去と土地の明渡しを求めた。これに対し、譲受人は建物買取請求権を行使した上で、代金支払との引換え給付を主張して占有を継続した。また、この占有期間中の賃料相当額の損害金または不当利得の成否が争われた。
あてはめ
1. 賃借権の譲渡は一応背信性を有するものであり、単に使用収益の方法に大きな差異が生じないという一般論だけでは背信性が失われるとはいえない。本件では、背信性を否定すべき「特段の事情」があるとは認められず、解除は有効である。 2. 建物買取請求権の行使により敷地賃貸借は消滅するが、建物の引渡を拒む権限(留置権等)があるとしても、その間、他人の土地である敷地を現に占有して利益を得ている以上、法律上の原因のない利益として賃料相当額を返還すべき義務がある。
結論
1. 無断譲渡に基づく解除は有効であり、明渡請求は権利の濫用ではない。 2. 建物買取請求権行使後の敷地占有について、賃料相当額の不当利得返還義務を認める。
実務上の射程
民法612条の解除制限に関する「信頼関係破壊の法理」を確立した重要判例である。答案上では、無断譲渡・転貸の事案において、形式的な要件該当性(612条1項)を指摘した上で、解除の有効性を否定するための「特段の事情」の存否を論じる際の規範として用いる。また、建物買取請求権行使後の処理として、引換給付を認めつつも賃料相当額の不当利得返還を認める実務上の指針となる。
事件番号: 昭和37(オ)1411 / 裁判年月日: 昭和39年9月25日 / 結論: 棄却
(省略)
事件番号: 昭和32(オ)411 / 裁判年月日: 昭和33年10月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が無断で賃借権を譲渡した場合であっても、それが賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は民法612条2項による解除権を行使できない。 第1 事案の概要:賃借人(被上告人)が賃貸人の承諾を得ることなく賃借権を第三者に譲渡した。これに対し、賃貸人は民法612条2項に…
事件番号: 昭和39(オ)697 / 裁判年月日: 昭和40年5月21日 / 結論: 棄却
無断転貸を理由とする土地賃貸借契約の解除が権利の濫用として許されない場合には、特段の事情がない限り、転借人に対し土地所有権に基づく土地明渡請求は許されない。
事件番号: 昭和42(オ)657 / 裁判年月日: 昭和46年6月22日 / 結論: 棄却
宅地の賃借人が借地の一部について借地権を第三者に譲渡した場合において、右譲渡部分が約四二〇平方メートルの借地のうち最も価値の低い部分にあたる約七〇平方メートルにすぎず、賃借人が従来の事情から右譲渡につき賃貸人の承諾が得られるものと思い、その際の名義書替料として相当の金員を賃貸人に支払うことを予定していた等、判示のような…