(省略)(最高裁昭和三九年(オ)第一四五〇号同四一年四月二一日第一小法廷判決・民集二〇巻四号七二〇頁参照)
土地賃貸借契約につき無断増改築禁止の特約違反を理由とする解除権の行使が信義則上許されないとされた事例
民法540条,民法594条,民法601条
判旨
無断増改築を理由とする無催告解除権留保の特約がある場合でも、増改築が土地の通常利用上相当であり、賃貸人に著しい影響を及ぼさず、信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは、特約に基づく解除は信義則上許されない。
問題の所在(論点)
無断増改築および使用目的違反を理由とする無催告解除特約の効力と、信頼関係破壊の理論の適用可否(民法541条、612条2項参照、信義則上の制限)。
規範
建物所有目的の土地賃貸借において、無断増改築を理由とする無催告解除特約がある場合であっても、①増改築が賃借人の土地の通常の利用上相当であり、②賃貸人に著しい影響を及ぼさないため、③賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは、同特約に基づく解除権の行使は、信義誠実の原則上(民法1条2項)許されない。
重要事実
賃借人(被上告人)は、建物使用目的を工場・倉庫に限定し、増改築を禁止する解除権留保付特約のもと土地を借り受けた。その後、賃借人は家業の経営不振から会社の再建を図るため、賃貸人に無断で、工場建物を店舗兼居宅や貸間に改装し、通路や物置を増築した。本件土地は店舗が立ち並ぶ商業地帯に位置しており、店舗用としての利用はむしろ相当であった。また、本特約は建物買取価額の増大防止等の目的ではなく、賃借人の当時の職種から付加されたに過ぎないものであった。
事件番号: 昭和39(オ)1450 / 裁判年月日: 昭和41年4月21日 / 結論: 棄却
一 建物所有を目的とする土地の賃貸借中に、賃借人が賃貸人の承諾をえないで借地内の建物の増改築をするときは、賃貸人は催告を要しないで賃貸借を解除することができる旨の特約があるにかかわらず、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで増改築をした場合において、増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり、土地賃貸人に著しい影響を及ぼさな…
あてはめ
まず、本件増改築は特約に違反する。しかし、①本件土地は商業地帯にあり、店舗用利用は土地の通常の利用として相当である。また、②住宅用地を工場にする場合と異なり、賃貸人に不利有害な影響を及ぼすものではない。さらに、③本件変更は一家の経済的苦況を脱するための一助としてなされた経緯があり、特約自体の趣旨も限定的である。これらを総合すれば、本件増改築が信頼関係を破壊するおそれがあるとは認め難い。したがって、解除権の行使は信義則に反し許されない。
結論
本件土地賃貸借契約の解除は認められず、上告を棄却する。
実務上の射程
無断増改築に関する解除特約の効力を制限したリーディングケース。答案では「信頼関係破壊の理論」の現れとして、形式的に特約違反がある場合でも、土地利用の相当性や賃貸人への影響度を具体的に検討し、信義則による解除権行使の制限を論じる際に活用する。
事件番号: 昭和44(オ)948 / 裁判年月日: 昭和44年12月16日 / 結論: 棄却
(省略)
事件番号: 昭和39(オ)1243 / 裁判年月日: 昭和41年6月9日 / 結論: 棄却
地上建物を地主に無断で増改築しない旨の特約に違反して、地主に無断で旧建物たる平家建バラツクを支柱の一部のみを残して他を全部とりこわし、新たに二階建本建築をした等原審認定の事実関係のもとにおいては、右無断増改築を理由とする土地賃貸借契約解除は有効と解すべきである。
事件番号: 昭和39(オ)697 / 裁判年月日: 昭和40年5月21日 / 結論: 棄却
無断転貸を理由とする土地賃貸借契約の解除が権利の濫用として許されない場合には、特段の事情がない限り、転借人に対し土地所有権に基づく土地明渡請求は許されない。
事件番号: 昭和40(オ)1169 / 裁判年月日: 昭和42年9月21日 / 結論: 棄却
無断増改築禁止特約に違反し、借地上の居宅(実測一五坪五合)中九坪五合をバー店舗に改築した場合には、土地賃貸借関係の継続を著しく困難にする不信行為として、右賃貸借契約を即時解除することができる。