(省略)
借地上の建物についてした工事が無断増改築禁止の特約違反を理由とする借地契約解除の原因とならないとされた事例
民法540条,民法616条,民法594条,借地法11条
判旨
土地賃借人が無断増改築禁止の特約に違反した場合であっても、賃貸人に対して実質的な損失や不利益を与えるものではなく、信頼関係を破壊するに足りる背信性がないと認められるときは、解除権の行使は許されない。
問題の所在(論点)
土地賃貸借契約における無断増改築禁止特約に違反する行為があった場合、いかなる基準で解除の効力を判断すべきか。また、建物の規模や構造が旧建物と同程度である場合に背信性は認められるか。
規範
継続的契約である賃貸借契約においては、特約違反等の債務不履行があっても、賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊するに足りる特段の背信性が認められない場合には、契約の解除は認められない。無断増改築の場合、当該行為が賃貸人に与える実質的な損失・不利益の有無や程度を考慮して、背信性の有無を判断すべきである。
重要事実
土地賃借人(被上告人)は、当初、木造瓦葺平家建の旧建物を取り壊し鉄骨造の新建物を建築しようとしたが、賃貸人(上告人)が承諾しなかったため断念した。その後、賃借人は旧建物の建築材料を基幹構造用材として大半そのまま使用し、旧建物と規模・構造・耐用年数等が上回らない程度の新建物を建築した。これに対し賃貸人は、無断増改築禁止の特約違反を理由に賃貸借契約の解除を主張した。
事件番号: 昭和39(オ)1243 / 裁判年月日: 昭和41年6月9日 / 結論: 棄却
地上建物を地主に無断で増改築しない旨の特約に違反して、地主に無断で旧建物たる平家建バラツクを支柱の一部のみを残して他を全部とりこわし、新たに二階建本建築をした等原審認定の事実関係のもとにおいては、右無断増改築を理由とする土地賃貸借契約解除は有効と解すべきである。
あてはめ
賃借人は、賃貸人の拒絶を受けて当初の鉄骨造建設計画を中止し、旧建物の廃材を利用して同規模・同構造の建物を再建するにとどめている。この新建物は、耐用年数等の点においても旧建物の範囲を超えるものではない。したがって、賃借人の一連の行為は、土地の賃貸人に対して実質的な損失や不利益を与えるものとはいえず、本件賃貸借契約を解除しなければならないほどの背信性は認められないと解される。
結論
本件無断増改築には背信性が認められないため、特約違反を理由とする解除の意思表示は効力を生じない。したがって、上告人の請求は認められず、上告を棄却する。
実務上の射程
賃貸借契約における「信頼関係破壊の法理」を無断増改築特約違反の事案に適用した事例である。特に建替えが、従前の建物と物理的・価値的に同質性を保っている場合には、特約違反があっても背信性が否定されやすい。答案上は、まず特約違反(形式的債務不履行)を認定した上で、背信性否定の考慮要素として「建物の規模・構造・耐用年数」や「賃貸人の実質的不利益」を論じる際の論拠となる。
事件番号: 昭和47(オ)90 / 裁判年月日: 昭和51年6月3日 / 結論: 棄却
(省略)(最高裁昭和三九年(オ)第一四五〇号同四一年四月二一日第一小法廷判決・民集二〇巻四号七二〇頁参照)
事件番号: 昭和43(オ)749 / 裁判年月日: 昭和44年1月31日 / 結論: 棄却
一、土地の賃貸借契約において、賃借人が賃借権もしくは賃借地上の建物を譲渡し、賃借物を転貸しまたは右建物に担保権を設定しようとするときには賃貸人の承諾を得ることを要し、これに違反したときは賃貸人が賃貸借契約を解除することができる旨の特約があるにもかかわらず、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで右特約所定の行為をした場合でも、賃…
事件番号: 昭和39(オ)1450 / 裁判年月日: 昭和41年4月21日 / 結論: 棄却
一 建物所有を目的とする土地の賃貸借中に、賃借人が賃貸人の承諾をえないで借地内の建物の増改築をするときは、賃貸人は催告を要しないで賃貸借を解除することができる旨の特約があるにかかわらず、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで増改築をした場合において、増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり、土地賃貸人に著しい影響を及ぼさな…
事件番号: 昭和40(オ)1169 / 裁判年月日: 昭和42年9月21日 / 結論: 棄却
無断増改築禁止特約に違反し、借地上の居宅(実測一五坪五合)中九坪五合をバー店舗に改築した場合には、土地賃貸借関係の継続を著しく困難にする不信行為として、右賃貸借契約を即時解除することができる。