一 建物所有を目的とする土地の賃貸借中に、賃借人が賃貸人の承諾をえないで借地内の建物の増改築をするときは、賃貸人は催告を要しないで賃貸借を解除することができる旨の特約があるにかかわらず、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで増改築をした場合において、増改築が借地人の土地の通常の利用上相当であり、土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため、賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは、賃貸人は、前記特約に基づき、解除権を行使することは許されないものというべきである 二 前記の特約がある場合において、借地人がその居住用建物の一部の根太などを取りかえ、二階部分を拡張してアパート用居室として他人に賃貸するように改造をしたが住宅用普通建物として前後同一であるなど判示事実(判決理由参照)のもとでは、賃貸人が右特約に基づいてした解除権の行使はその効力を生じないと認めるのが相当である
一 借地契約における増改築禁止の特約と解除権行使の許否 二 前項の特約がある場合において建物の増改築を理由とする解除権行使の効果が生じないとされた事例
民法540条,民法601条,借地法11条
判旨
建物増改築禁止特約に違反して無断増改築がなされた場合でも、それが土地の通常の利用上相当であり、賃貸人に著しい影響を及ぼさず、信頼関係を破壊するおそれがあると認められないときは、信義則上、解除権の行使は許されない。
問題の所在(論点)
建物増改築禁止特約がある場合に、賃借人が無断で大規模な増改築(アパートへの改造)を行った際、信頼関係破壊の理論を適用して解除権の行使を制限できるか。
規範
賃貸借契約における無断増改築禁止特約違反に基づく無催告解除権の行使は、当該増改築が(1)借地人の土地の通常の利用上相当であり、(2)土地賃貸人に著しい影響を及ぼさないため、(3)賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは、信義誠実の原則(民法1条2項)上、許されない。
事件番号: 昭和47(オ)90 / 裁判年月日: 昭和51年6月3日 / 結論: 棄却
(省略)(最高裁昭和三九年(オ)第一四五〇号同四一年四月二一日第一小法廷判決・民集二〇巻四号七二〇頁参照)
重要事実
賃借人は、建物所有目的の土地賃貸借契約において、賃貸人の承諾なく増改築をしない旨の特約(無催告解除権付)を締結していた。賃借人は、昭和7年築の2階建住宅について、賃貸人に無断で根太や柱の一部を交換し、2階部分を6坪から14坪に拡張してアパートとして他人に賃貸できるよう改造した。しかし、改造後も住宅用普通建物である点は変わらず、建物の同一性は損なわれていなかった。
あてはめ
本件増改築は、2階部分を拡張しアパート用に改造するものであるが、住宅用普通建物である点では前後同一であり、建物の同一性を損なうものではない。このような態様は土地の通常の利用上相当(要件1)といえる。また、これによって賃貸人の地位に著しい影響を及ぼす(要件2)こともない。したがって、賃貸借契約における信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない(要件3)特段の事情があるといえる。
結論
無断増改築禁止特約違反を理由とする賃貸人の解除権行使は、信義則上その効力が認められず、賃貸借契約の解除は認められない。
実務上の射程
無断転貸・譲渡(民法612条2項)だけでなく、特約違反(増改築、用途制限等)による解除全般において、信頼関係破壊の理論が適用されることを示した重要判例である。答案上は、形式的な特約違反があっても、土地利用の必要性と賃貸人への不利益を比較衡量し、実質的な信頼関係の破壊がないことを論じる際の規範として活用する。
事件番号: 昭和39(オ)1243 / 裁判年月日: 昭和41年6月9日 / 結論: 棄却
地上建物を地主に無断で増改築しない旨の特約に違反して、地主に無断で旧建物たる平家建バラツクを支柱の一部のみを残して他を全部とりこわし、新たに二階建本建築をした等原審認定の事実関係のもとにおいては、右無断増改築を理由とする土地賃貸借契約解除は有効と解すべきである。
事件番号: 昭和43(オ)749 / 裁判年月日: 昭和44年1月31日 / 結論: 棄却
一、土地の賃貸借契約において、賃借人が賃借権もしくは賃借地上の建物を譲渡し、賃借物を転貸しまたは右建物に担保権を設定しようとするときには賃貸人の承諾を得ることを要し、これに違反したときは賃貸人が賃貸借契約を解除することができる旨の特約があるにもかかわらず、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで右特約所定の行為をした場合でも、賃…
事件番号: 昭和40(オ)1169 / 裁判年月日: 昭和42年9月21日 / 結論: 棄却
無断増改築禁止特約に違反し、借地上の居宅(実測一五坪五合)中九坪五合をバー店舗に改築した場合には、土地賃貸借関係の継続を著しく困難にする不信行為として、右賃貸借契約を即時解除することができる。