判旨
契約書に「賃貸借」等の文言が用いられていても、証拠により認定された契約の経緯や当事者の合理的意思に照らし、実態が明渡しの猶予に過ぎないと認められる場合には、文言にかかわらず賃貸借契約の成立は否定される。
問題の所在(論点)
契約書上に「賃貸借」との明確な文言が存在する場合に、その文言の形式的意義を排し、証拠に基づき「合意解除および明渡しの猶予」という異なる契約の性質を認定することが許されるか。事実認定および契約解釈における採証法則の適用の限界が問題となる。
規範
契約の性質および内容は、契約書上の文言のみに拘束されるものではなく、契約締結に至る背景、当事者の真意、および前後の諸事情を総合的に考慮して判断されるべきである。書面上「賃貸借」との記載があっても、他の証拠(人証、当事者本人の供述、明渡し交渉の経緯等)により、その真実の趣旨が「合意解除に伴う明渡しの猶予」と認められる場合には、その実態に従って解釈する。その際、文言と異なる趣旨に解釈すべき「特別の事情および相当の理由」が必要となる。
重要事実
上告人と被上告人は、昭和22年5月に建物および動産に関して「賃貸」「賃貸期間」「賃料」等の文言を用いた契約書(甲1号証)を授受した。しかし、実態としては従前の賃貸借契約を合意解除しており、上告人が被上告人に対し、期限を昭和26年5月までとして明渡しを猶予してもらうことを約定した経緯があった。また、上告人は期限到来に先立ち、繰り返し明渡しの猶予を求めて拒絶されていた事実も認められた。上告人は、契約書の文言を根拠に賃貸借契約の継続を主張した。
あてはめ
本件契約書には確かに賃貸借を示唆する文言が含まれている。しかし、第一審および原審が挙げた証人尋問や上告人本人の供述によれば、本件は契約を合意解除した上で、明渡しを一定期間猶予する趣旨で作成されたものである。上告人が期限前に何度も猶予を請い、それを拒絶されていた事実は、本件が新たな賃貸借ではなく明渡し猶予であったことを強く推認させる。このような「特別の事情および相当の理由」が存在する以上、契約書の文言のみによる認定を排し、実態に即して「明渡し猶予」と認定することは採証法則に反しないと評価される。
結論
本件契約は賃貸借ではなく、従前の契約を解除した後の明渡し猶予である。したがって、期間満了に伴う明渡し請求を認めた原判決は正当であり、上告は棄却されるべきである。
実務上の射程
意思表示の解釈において、書面(処分証書)の文言と異なる認定を行う際のハードル(特別の事情・相当の理由)を示した。司法試験においては、書面の形式的な文言と当事者の行動(動機や事後行為)が矛盾する場合に、諸事情を総合考慮して「真の合意」を認定する際の論理構成として活用できる。
事件番号: 昭和27(オ)861 / 裁判年月日: 昭和29年8月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】借地借家法(旧借家法)における賃貸借契約の解約の申入れには「正当の事由」が必要であり、原審が認定した諸事実に照らし、賃貸人側の自己使用の必要性等が不十分であれば解約は認められない。 第1 事案の概要:上告人(賃貸人)が被上告人(賃借人)に対し、本件建物の賃貸借契約の解除を主張して建物の明け渡しを求…