判旨
建物の使用が賃貸借契約ではなく、雇用関係(一種の委任関係)に基づくものである場合、その占有は契約関係の存続を前提とするものであり、特段の賃借権は成立しない。裁判所が当事者の主張した雇用関係を一種の委任関係と表現して認定しても、当事者の申し立てない事実を認めたことにはならない。
問題の所在(論点)
本件建物の占有権原が賃貸借契約に基づくものか、それとも雇用もしくは委任的な関係に基づくものか。また、原審が被上告人の主張(雇用関係)に対し「一種の委任関係」として認定したことが、当事者の主張しない事実を認定した違法(弁論主義・処分権主義違反)にあたるか。
規範
建物の占有権原の有無は、原因となる契約の性質(賃貸借か雇用・委任か)を実態に即して判断すべきである。また、裁判所が当事者の主張する事実関係(雇用関係等)の法的性質を説明するために、当事者が用いた用語とは異なる表現(委任関係等)を用いても、それが実態において同一の事実を指すものであれば、処分権主義や弁論主義に反するものではない。
重要事実
上告人の先代と被上告人の先代との間で、大正14年に本件建物の使用を含む契約が成立した。上告人は、この契約により建物賃借権が設定されたと主張して建物の占有継続を正当化した。これに対し、被上告人は当該関係が雇用関係に基づくものであると主張。原審は、この関係を「一種の委任関係と目すべき契約」と表現し、賃借権の存在を否定して、契約終了に伴う建物の明け渡しを認めた。
あてはめ
原判決が認定した「一種の委任関係と目すべき契約」は、被上告人が主張した「雇用関係」の実態を説明するために用いられた特別な表現に過ぎない。したがって、これは当事者が主張した事実関係の範囲内での法的評価の適正化であり、別異の事実を認定したものとはいえない。また、契約内容を検討しても明示または黙示の賃借権設定があったとは認められず、建物の占有はあくまで当該契約関係に付随するものに留まる。
結論
本件建物の占有権原としての賃借権は認められず、原審の事実認定および法的評価に違法はないため、上告を棄却する。
実務上の射程
建物の利用が対価支払いを伴う賃貸借か、職務遂行等に付随する利用(雇用・委任)かという占有権原の判別に際し、契約の実態を重視する姿勢を示す。答案上では、当事者の構成した法律関係と裁判所の認定した性質が形式的に異なる場合でも、事実の同一性の範囲内であれば許容されるという文脈で活用し得る。
事件番号: 昭和28(オ)867 / 裁判年月日: 昭和31年4月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】契約書に「賃貸借」等の文言が用いられていても、証拠により認定された契約の経緯や当事者の合理的意思に照らし、実態が明渡しの猶予に過ぎないと認められる場合には、文言にかかわらず賃貸借契約の成立は否定される。 第1 事案の概要:上告人と被上告人は、昭和22年5月に建物および動産に関して「賃貸」「賃貸期間…