判旨
家屋全部の明渡しを求める請求には、特段の意思表示がない限り、その一部である階上全部の明渡しを求める趣旨が含まれる。したがって、裁判所が家屋の一部についてのみ明渡しを命じても、処分権主義(民事訴訟法246条)に反しない。
問題の所在(論点)
家屋全部の明渡しを求める請求に対し、裁判所が階上部分(一部)のみの明渡しを命じることは、処分権主義(申立て外の判決の禁止)を定めた民事訴訟法246条に抵触するか。
規範
訴訟上の請求において、ある物の全部の明渡しを求める趣旨は、特段の意思表示のない限り、当然にその構成部分(一部)の明渡しを求める趣旨を包含するものと解するのが相当である。したがって、全部の請求に対して一部の認容をすることは、当事者の合理的意思に合致する限り、処分権主義に抵触しない。
重要事実
上告人(原告)は、被告に対し、家屋全部の明渡しを求め、予備的に階下全部の明渡しを求めて提訴した。これに対し原審(控訴審)は、上告人の請求のうち、階上の明渡しと共用部分の使用を求める限度で正当として一部認容の判決を言い渡した。上告人は、家屋の一部の明渡しを認容した原判決に違法があるとして上告した。
あてはめ
上告人は主位的に家屋全部、予備的に階下の明渡しを求めていたが、家屋全部の明渡しを求める趣旨には、当然に二階(階上)全部の明渡しを求める趣旨が含まれていると解される。原審は、証拠調べおよび弁論の全趣旨に基づき、上告人の本訴請求が階上の明渡し等の限度で認容されることが、上告人の意思に反しないと判断している。この判断は、質的・量的に申立ての範囲内にある一部認容として適法である。
結論
家屋全部の請求に対し、その一部である階上部分の明渡しを命じることは適法であり、処分権主義に反しない。本件上告は棄却される。
実務上の射程
処分権主義(民訴法246条)における「一部認容」の可否に関する典型例。全部判決の申立てには一部判決の申立てが含まれるという「量的妥当性」の議論として整理される。実務上、原告に一部認容の意思があるか否かは、弁論の全趣旨等から合理的に判断される。
事件番号: 昭和28(オ)102 / 裁判年月日: 昭和30年5月24日 / 結論: 棄却
原告が家屋の全部明渡の請求をした場合に、一部明渡を命じる判決をしても、当事者の申立てない事項につき判決をしないものとはいえない。