判旨
賃貸人が家屋全部の解約申入れをした場合、特段の事情がない限り、その一部である二階部分のみの解約を求める趣旨も含まれる。また、住宅事情が緊迫している状況下では、一部明渡しによる共同生活の不便が生じても、直ちに正当事由を否定すべきではない。
問題の所在(論点)
1. 家屋全部を対象とした解約申入れの効力が、その一部(二階部分)のみに対しても及ぶか。2. 住宅の一部明渡しにより賃貸人と賃借人が共同生活を営むことになる場合に、借家法(当時)上の「正当事由」が認められるか。
規範
1. 家屋全部の解約申入れには、特段の事情がない限り、その一部についても解約する趣旨が含まれる。2. 解約申入れの正当事由の判断においては、住宅事情の緊迫性を考慮し、一部明渡しに伴う共同生活の困難性が「絶対に共同生活を不能とすべき特別の事情」に達しない限り、当事者間の協調による解決を優先すべきである。
重要事実
賃貸人(被上告人)が、本件家屋全部について賃借人(上告人)に対し解約の申入れを行い、建物の明渡しを求めた。被上告人は交渉過程で「二階だけでも明け渡されたい」旨を申し入れていた。これに対し、賃借人側は、建物の一部のみの解約は認められないこと、および階上と階下で別個の世帯が共同生活を営むことは困難であり、解約に正当事由がないことを主張して争った。
あてはめ
1. 被上告人は二階部分のみの明渡しを求めた経緯があり、二階部分のみでは解約しないという特段の事情は認められない。よって、全部の解約申入れには二階部分(および共用部分)の解約の趣旨が含まれる。2. 東京都の住宅事情が緊迫している現状に鑑みれば、別個の世帯が階上・階下に分かれて生活する困難さは、互いの協調により克服すべきものである。本件では、共同生活を絶対に不能とするほどの特別の事情は認められないため、正当事由を肯定した原審の判断は正当である。
結論
本件家屋全部の解約申入れには二階部分の解約の趣旨が含まれ、かつ住宅事情等を考慮すれば正当事由も認められるため、二階部分(および共用部分)の明渡し請求は認容される。
実務上の射程
全部の明渡し請求に一部明渡し請求が含まれるという「一部認容判決」の法理を、解約申入れという意思表示の解釈および訴訟上の請求の解釈の両面から肯定した事例。正当事由の判断において、当時の深刻な住宅不足という社会背景を考慮し、不便を忍んででも一部明渡しを認めるべきという実務的要請を示している。
事件番号: 昭和26(オ)564 / 裁判年月日: 昭和28年4月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物賃貸借の解約申入れについて、建物の一部分のみに解約の正当事由がある場合には、その一部に限定して解約の効力を認めることができる。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)が、二階建家屋(一階12坪、二階10坪)のうち、二階北側の三畳一室および六畳一室の合計二室について解約の申入れを行った。原審は、当事…