判旨
賃貸借契約における解約の申入れが効力を生じない以上、その後の明渡請求は権利の濫用を検討するまでもなく認められない。また、原判決が主たる理由に加えて権利の濫用という予備的・付加的な判示をしたとしても、主たる理由が正当である限り、その付加的部分に対する不服は上告理由として採用されない。
問題の所在(論点)
請求を棄却する主たる理由(解約申入れの無効)が示されている場合に、原判決が付け加えた「権利の濫用」という傍論的判断に対して上告理由として不服を申し立てることができるか。
規範
訴訟において、請求を排斥する主たる理由(本件では解約申入れの無効)が正当である場合、それと併記された予備的あるいは付加的な判示(権利の濫用等)に瑕疵があったとしても、判決の結論に影響を及ぼさない。したがって、そのような無用の判示に対する攻撃は、上告理由として不適法である。
重要事実
原告(上告人)が被告に対し、訴外Dによる解約申入れを根拠として本件宅地の明渡しを求めた事案。原審は、まずDによる解約申入れはその効力を生じない(無効)として原告の請求を排斥した。その上で、仮に解約申入れが有効であったとしても、本件請求は権利の濫用に当たり許容できないとの付加的な判断を示した。原告は、この権利の濫用に関する判断の不当を理由に上告した。
あてはめ
本件では、原判決が「解約の申入れはその効力を生じない」と判断した時点で、原告の請求を排斥する結論は法的に確定している。その後に示された「権利の濫用としても請求を許容できない」との判示は、結論を導くために必須ではない「無用の判示」にすぎない。上告人はこの無用の判示部分のみを非難しているが、主たる理由である解約申入れの効力否定が維持される限り、判決の結論は動かない。
結論
本件上告は棄却される。原判決の無用の判示に対する攻撃は、判決の結果に影響を及ぼさないため、採用し得ない。
実務上の射程
判決理由中に主位的な理由と予備的・付加的な理由が併記されている場合、主位的な理由を覆さない限り、予備的な理由のみを争っても上告理由として認められないという実務上の取り扱いを示す。答案上は、判決の結論に影響しない付随的判断(傍論)への反論の重要性が低いことを説明する際に参照し得る。
事件番号: 昭和26(オ)747 / 裁判年月日: 昭和28年9月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告審において、原判決の事実認定に沿わない独自の事実を前提として憲法違反を主張することは、上告の適法な理由とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、原判決が認定した事実とは異なる事実を想定し、その想定事実に基づいて憲法違反(違憲)を主張して上告を提起した。 第2 問題の所在(論点):原判決の事実…
事件番号: 昭和30(オ)645 / 裁判年月日: 昭和31年12月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物明渡請求が権利の濫用に当たるか否かは、請求側の正当な目的の有無に加え、相手方側の事情を総合的に斟酌し、社会通念上是認できない程度のものといえるかによって判断すべきである。 第1 事案の概要:被上告人(権利者)が上告人(占有者)に対し、本件建物の明渡しを求めて提訴した。上告人は、当該明渡請求が権…
事件番号: 昭和27(オ)609 / 裁判年月日: 昭和30年4月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民事上告事件において、上告理由が特例法に定める上告理由のいずれにも該当せず、かつ法令の解釈に関する重要な主張を含まない場合には、上告を棄却すべきである。 第1 事案の概要:上告人は、本件土地が特別都市計画区域外の土地であると主張し、自身の賃借申出が有効であるとして争った。しかし、原審(および前審の…
事件番号: 昭和35(オ)53 / 裁判年月日: 昭和37年3月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法1条3項の権利濫用について、契約解除権の行使が権利の濫用にあたると解すべき根拠となる事実が認められない場合には、当該解除は有効である。原審が確定した事実関係の範囲内では、解除権の行使を不当とする事情がなく、権利濫用には当たらないとした判断を維持した。 第1 事案の概要:本件は契約の解除権行使の…