判旨
証拠調べの申し出において立証事項や証拠方法の表示が不十分な場合は不適法であり、それが唯一の証拠であっても裁判所は証拠調べを行う義務を負わない。
問題の所在(論点)
証拠の申し出において立証事項や証拠方法の表示が不十分な場合、当該証拠が唯一の証拠であっても、裁判所が証拠調べを行わないことは許されるか(民事訴訟法上の証拠申出の適法性と裁判所の義務)。
規範
証拠の申し出は、立証すべき事実(立証事項)の明示と、証拠方法の具体的表示を伴わなければならない。これらの要件を欠く申し出は不適法であり、たとえその証拠が当事者の主張を証明するための「唯一の証拠」であったとしても、裁判所がこれを取り調べないことは適法である。
重要事実
上告人は原審においてある証拠の申し出を行ったが、その際、当該証拠によって何を立証しようとするのかという「立証事項」の明示、および対象となる「証拠方法」の具体的な表示を欠いていた。原審はこの証拠調べを行わずに判決を下したため、上告人はこれが「唯一の証拠」の取り調べを怠った違法があると主張して上告した。
あてはめ
本件における上告人の証拠申し出は、記録上、立証事項の明示および証拠方法の具体的表示を欠いていることが明らかである。このような不適法な申し出に対しては、たとえそれが事実認定に不可欠な唯一の証拠に該当する可能性があったとしても、裁判所には証拠調べを行うべき職務上の義務は生じない。したがって、原審が証拠調べを実施しなかった措置に違法性は認められない。
結論
本件の証拠申し出は不適法であり、原審がこれを取り調べなかったことに違法はないため、上告は棄却される。
実務上の射程
唯一の証拠であっても証拠決定は裁判所の裁量に属するが、本判決はそれ以前の段階として、申出自体の「適法性」が欠ける場合には裁判所に義務が生じないことを確認したものである。実務上は、証拠申出書の記載において立証趣旨と証拠方法を特定することの重要性を裏付ける判例として機能する。
事件番号: 昭和36(オ)622 / 裁判年月日: 昭和36年11月10日 / 結論: 棄却
証拠申出が採用された後、尋問事項等を記載した書面の提出がないまま約一〇カ月を徒過した場合には、たとえ唯一の証拠方法であつても、これを取り調べることを要しない。
事件番号: 昭和29(オ)738 / 裁判年月日: 昭和31年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】私文書の思想内容ではなく、その存在自体や記載文字・印影の形状を証拠とする場合には、民事訴訟法上の文書の真正な成立を証明する必要はない。 第1 事案の概要:上告人の代理人と称するDが、上告人から預かっていた印章を用いて根抵当権設定契約書や約束手形等(乙各号証)を作成した。原審は、これら私文書の成立の…