証拠申出が採用された後、尋問事項等を記載した書面の提出がないまま約一〇カ月を徒過した場合には、たとえ唯一の証拠方法であつても、これを取り調べることを要しない。
唯一の証拠方法であつても取り調べることを要しないとされた事例。
民訴法258条,民訴法259条,民訴規則31条
判旨
当事者の懈怠により証拠申出が不適式であり、長期間にわたって証拠調べの施行を不能ならしめた場合には、たとえそれが唯一の証拠であっても、裁判所はこれを取り調べる義務を負わない。
問題の所在(論点)
当事者が証拠申出の手続を怠り、長期間証拠調べを不能にした場合、裁判所は「唯一の証拠」であってもその採用を取り消し、証拠調べを行わずに裁判をすることができるか。
規範
当事者が証拠を申し出た場合であっても、その申出が不適式であり、かつ当事者の責めに帰すべき事由(懈怠)によって長期間にわたり証拠調べの実施を不能ならしめたときは、裁判所は当該証拠を採用せず、または採用を取り消すことができる。この理は、当該証拠が事実認定に不可欠な「唯一の証拠」である場合であっても同様に妥当する。
重要事実
上告人は、原審の第一回口頭弁論期日(昭和35年3月2日)において、書類の取り寄せおよび証人2名の尋問を申し出た。原審はこれを採用したが、上告人は正当な理由なく、約10ヶ月が経過した第四回口頭弁論期日(昭和36年1月17日)に至るまで、証拠申出書を提出しなかった。そのため、原審は当該証拠採用を取り消し、弁論を終結して判決を言い渡した。
あてはめ
上告人は、証拠調べの前提となる証拠申出書の提出を、第一回期日から第四回期日までの約10ヶ月間、正当な理由なく放置した。この懈怠は証拠申出を不適式にするものであり、審理の遅延を招いたといえる。このような状況下では、裁判所が適時提出主義や訴訟経済の観点から証拠採用を取り消すことは正当な訴訟指揮の範囲内であり、唯一の証拠であっても取り調べる必要はないと解される。
結論
唯一の証拠であっても、当事者の懈怠により不適式な申出となり、長期の遅延を招いた場合は、取り調べを要しない。本件の原審の判断は正当である。
実務上の射程
民事訴訟法における適時提出主義(156条)や証拠調べの必要性(181条1項)を具体化する判例。特に「唯一の証拠」の原則に対する例外として、当事者の訴訟上の義務懈怠がある場合にはその保護が否定されることを示す。実務上は、証拠申出の遅滞が「故意または重大な過失」によるものか、また「訴訟の完結を遅延させることとなるか」を検討する際の有力な根拠となる。
事件番号: 昭和28(オ)536 / 裁判年月日: 昭和30年3月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】証拠調べの申し出において立証事項や証拠方法の表示が不十分な場合は不適法であり、それが唯一の証拠であっても裁判所は証拠調べを行う義務を負わない。 第1 事案の概要:上告人は原審においてある証拠の申し出を行ったが、その際、当該証拠によって何を立証しようとするのかという「立証事項」の明示、および対象とな…