判旨
調停の成立において、契約の要素となるべき事項について当事者の認識に相違があり、その点に相違があれば調停に応じなかったであろうと認められる場合には、要素の錯誤としてその効力を否定することができる。
問題の所在(論点)
調停という裁判上の手続きにおいて成立した合意であっても、その前提となる対象物の属性(種類)に関する認識の相違が「法律行為の要素の錯誤」に該当し、調停の効力に影響を及ぼすか。
規範
意思表示の動機が法律行為の内容とされ、かつ、その事項が欠けていれば表意者が意思表示をしなかったであろうと認められ、かつ、そのことが取引上も容認される程度に重要である場合には、要素の錯誤(民法95条本文)に該当する。
重要事実
本件では調停の成立に際し、被上告人らにおいて、対象となる立木が「杉」のみであることを前提としていた。しかし、実際には「杉以外の立木全部」も含まれる余地があった。被上告人らは、もし立木が杉以外の立木全部を意味するものであれば、当該調停には応じなかったであろうと認められる状況にあった。
あてはめ
被上告人らが「本件立木は杉のみである」と認識していたことは調停の要素となっていた。若しこれが「杉以外の立木全部」を意味するものであったならば、被上告人らが調停に応じなかったであろうことは、客観的に見ても取引上容認される。したがって、本件調停の意思表示には要素の錯誤が存在すると解される。
結論
本件調停の成立には要素の錯誤があるため、その効力を否定した原審の判断は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
裁判上の調停であっても、実体法上の契約と同様に錯誤(民法95条)の規定が適用され得ることを示している。特に目的物の属性や範囲に関する誤認が、合意の成否を左右するほど重要な場合には要素の錯誤となり得るため、答案では「その点に相違があれば意思表示をしなかったこと」および「それが取引上容認されること」を事実から丁寧に拾う必要がある。
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