建物所有のための土地の賃貸借の期間を五年と定めることが法律上有効であると思つて、建物収去土地明渡の和解をしても、右は要素の錯誤にあたらない。
要素の錯誤にあたらないと認められた事例
民法95条
判旨
調停の合意の前提となる賃貸借期間の定めが無効であることを知らないといった事情は、単なる縁由の錯誤にすぎず、要素の錯誤には当たらないため、調停の無効を主張することはできない。
問題の所在(論点)
調停の合意の前提となる契約条項が無効であることを知らないまま合意に至った場合、それが民法95条(当時)の「要素の錯誤」に該当し、調停が無効となるか。
規範
法律行為の要素に錯誤があるといえるためには、意思表示の内容の主要な部分に錯誤が存在し、かつ、その錯誤がなければ表意者が意思表示をしなかったであろうといえることが必要である。単なる動機(縁由)の錯誤は、原則として要素の錯誤には当たらない。
重要事実
上告人と被上告人らは、本件土地の賃貸借契約を含む事項について調停を行った。その際、賃貸借期間を5年とする定めを設けたが、実際にはこの期間の定めは法的に無効であった。しかし、当事者双方はこの無効の事実を錯誤により知らず、有効なものと信じて調停の合意に至った。その後、上告人がこの錯誤を理由に調停の無効を主張した。
あてはめ
本件において、賃貸借期間の定めが無効であるにもかかわらず有効であると誤信した点は、本件調停の合意を形成するに至った背景事情、すなわち「縁由」にすぎない。調停合意の内容そのものに不可欠な主要部分の誤りとはいえず、意思表示の根幹をなす要素の錯誤には該当しないと評価される。したがって、錯誤による無効主張は認められない。
結論
本件の錯誤は「要素の錯誤」にあたらないため、上告人は錯誤をもって本件調停の無効を主張することはできない。
実務上の射程
調停や和解において、前提となる法律関係の認識に誤りがあっても、それが合意の動機にとどまる場合は「要素の錯誤」とならないことを示した。和解等の既判力に準ずる効力が争われる場面で、錯誤の範囲を限定的に解釈する際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和39(オ)247 / 裁判年月日: 昭和42年2月16日 / 結論: 棄却
昭和二〇年政令第七八号(ドイツ財産移動の制限に関する)に違反し、主務大臣の許可なくドイツ財産の所有権の変動を定めた調停も、平和条約後右財産に対する凍結解除の指令があつたときは有効となる。
事件番号: 昭和32(オ)191 / 裁判年月日: 昭和36年5月26日 / 結論: 棄却
借地権の期間満了による建物収去土地明渡の調停において期限後における借地権の消滅が合意せられた以上、借地法第六条の法定更新による期限後の借地権存続につき錯誤があつたことを理由として右調停の効力を争うことは、民法第六九六条により許されない。