借地権の期間満了による建物収去土地明渡の調停において期限後における借地権の消滅が合意せられた以上、借地法第六条の法定更新による期限後の借地権存続につき錯誤があつたことを理由として右調停の効力を争うことは、民法第六九六条により許されない。
錯誤による調停無効の主張と民法第六九六条。
民法696条
判旨
和解の目的となった争いの対象について、後に基礎となる法律関係が判明したとしても、民法696条により和解の効力を争うことはできない。借地権の存否を争い、期限後の消滅を合意した調停成立後に、法定更新の事実が判明したとしても、要素の錯誤を理由に和解を無効とすることは許されない。
問題の所在(論点)
和解(調停)において、当事者が争いの対象となっていた権利の存否について合意した後に、その前提となる法律関係(法定更新の有無)について錯誤があったことを理由に、和解の効力を争うことができるか(民法696条の適用範囲)。
規範
民法696条の規定により、和解において争いの対象となっていた事項については、たとえ後に和解当時と異なる法律的・事実的事実が判明したとしても、和解によって確定された権利関係を争うことはできない。和解の対象が特定の権利の存否そのものである場合、その根拠となる法理(法定更新の成否等)についての認識に誤りがあったとしても、それは和解の前提となる事実に係る錯誤ではなく、和解の目的そのものに関する錯誤にあたるため、同条の確定効が優先し、錯誤による無効主張は制限される。
重要事実
地主Dは、借地人(上告人)に対し、借地法に基づく期限満了前の昭和19年に更新拒絶の通知を行い、借地権の存否を争点として第一次調停(和解)が成立した。その際、借地人は一定の期限後に借地権が消滅し土地を明け渡すことに合意した。その後、第ニ次調停を経て明渡期限を延長したが、上告人は「実は法定更新が成立しており借地権が存続していたことを知らなかった」として、第一次調停には要素の錯誤があると主張し、和解の効力を争った。
あてはめ
本件第一次調停において民法上の和解の対象となったのは、正に「借地権の存否自体」であった。当事者は借地権が消滅することを前提に合意を形成しており、この合意内容は和解の目的そのものである。したがって、後に法定更新という有利な法的地位があったことが判明したとしても、それは和解によって確定・譲歩の対象とした紛争事項そのものであるから、民法696条が適用される。結果として、上告人は錯誤を理由に調停の効力を争うことはできない。
結論
和解の対象となった権利の存否について争いがある場合、和解成立後にその権利関係に関する新事実や法理が判明しても、民法696条によりその効力を争うことはできず、上告人の錯誤主張は認められない。
実務上の射程
和解の対象(紛争の目的)自体に錯誤がある場合、民法696条の「確定効」が働き、原則として錯誤無効(現行法上の取消し)の主張が封じられることを示す。答案では、和解の対象となっている事項(争点)と、その前提(争点外の基礎事実)を区別し、本判例のように「権利の存否そのもの」が争点である場合には同条により蒸し返しが許されないと論じる際に活用する。
事件番号: 昭和35(オ)314 / 裁判年月日: 昭和35年11月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】和解の目的となった争いの対象である権利関係について錯誤があったとしても、民法696条の趣旨に照らし、和解の効力を否定することはできない。 第1 事案の概要:上告人(被告・控訴人)は、ある権利関係について誤信(錯誤)していた。この誤信は、当事者が和解によって解決し、確定させることを約した「争いの目的…
事件番号: 昭和33(オ)976 / 裁判年月日: 昭和35年12月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機に錯誤がある場合、その動機が相手方に表示され、意思表示の内容となったときに限り、法律行為の要素の錯誤として取り扱われる。 第1 事案の概要:上告人は、本件調停による和解契約において、対象となる土地が「自作地」であるにもかかわらず「小作地」であると誤信した。上告人は、小作地であれば経済…