判旨
和解の目的となった争いの対象である権利関係について錯誤があったとしても、民法696条の趣旨に照らし、和解の効力を否定することはできない。
問題の所在(論点)
和解の目的となった争いの対象(権利関係)自体について錯誤があった場合、民法95条(錯誤)による無効主張が認められるか、あるいは民法696条により制限されるか。
規範
和解契約において、当事者が争いの目的として合意により確定させた事項(争いの対象となった権利関係そのもの)についての錯誤は、原則として和解の無効を来さない(民法696条参照)。
重要事実
上告人(被告・控訴人)は、ある権利関係について誤信(錯誤)していた。この誤信は、当事者が和解によって解決し、確定させることを約した「争いの目的たる権利」に関するものであった。上告人はこの錯誤を理由に和解の無効を主張した。
あてはめ
上告人が主張する錯誤の内容は、本件和解により止めることを約した「争いの目的たる権利」そのものに関するものである。民法696条は、和解によって確定した法律関係は、たとえ真実と異なっていても覆せないとする「確定効」を定めている。したがって、まさに争点として和解で決着させた事項について後に錯誤を主張することは、和解制度の趣旨に反し、許されない。
結論
本件和解は無効とはならず、上告人の主張は認められない。
実務上の射程
和解の確定効(民法696条)の適用範囲を画定する判例である。答案上は「和解の前提(争いの対象外の事項)」と「和解の目的(争いの対象そのもの)」を峻別し、後者の錯誤は原則として主張できないとする枠組みで使用する。ただし、判決文からは不明だが、現代の通説的見解(和解の前提となる基礎的事実の錯誤については95条を適用しうる)との境界線に注意を要する。
事件番号: 昭和27(オ)785 / 裁判年月日: 昭和29年2月12日 / 結論: 棄却
売買の目的物及びその成立の事情が後記(判文参照)のとおりである場合においては、買主に関する錯誤は要素の錯誤と認むべく且つ右錯誤につき売主に重大な過失なきものとして売買を無効と認むべきである。
事件番号: 昭和33(オ)976 / 裁判年月日: 昭和35年12月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機に錯誤がある場合、その動機が相手方に表示され、意思表示の内容となったときに限り、法律行為の要素の錯誤として取り扱われる。 第1 事案の概要:上告人は、本件調停による和解契約において、対象となる土地が「自作地」であるにもかかわらず「小作地」であると誤信した。上告人は、小作地であれば経済…
事件番号: 昭和32(オ)191 / 裁判年月日: 昭和36年5月26日 / 結論: 棄却
借地権の期間満了による建物収去土地明渡の調停において期限後における借地権の消滅が合意せられた以上、借地法第六条の法定更新による期限後の借地権存続につき錯誤があつたことを理由として右調停の効力を争うことは、民法第六九六条により許されない。