判旨
調停条項に記載のない口頭の約束であっても、調停成立の前提条件として法律上の効力を持ち得る。また、相手方が争わない事実に反する認定をすることは自白の拘束力(民訴法179条等)に反し、農地転用許可の有無という登記の有効性に関する重要事実を等閑視することは許されない。
問題の所在(論点)
1. 調停調書に記載されていない口頭の約束が、調停条項の履行に影響を及ぼす法律上の義務となり得るか。2. 当事者が争っていない事実(知事許可の欠如)に反して、裁判所が証拠により反対の事実を認定することが許されるか。
規範
1. 調停調書に記載のない事項であっても、当事者間において調停条項の前提条件として口頭で合意され、その実行が義務の内容となっている場合には、法律上の効力を有し、その不履行は相手方の債務不履行責任(履行遅滞等)の判断に影響を及ぼす。2. 当事者が争わない事実(自白)については、裁判所はこれと抵触する認定をなし得ない(民事訴訟法179条の趣旨)。
重要事実
上告人と被上告人は、調停において被上告人夫婦の同居義務を定めた。その際、上告人が先に挨拶を行い、被上告人の妻の実家と意思疎通を図ることが調停成立の前提として口頭で約束されていたが、調書には記載されなかった。上告人はこの挨拶を行わなかったが、被上告人が同居しないことを理由に訴えを提起。また、本件土地(農地)の贈与による移転登記について、上告人は「知事の許可がなく無効」と主張し、被上告人もこれを争わなかったが、原審は許可があったものと推認して上告人の請求を棄却した。
あてはめ
1. 本件挨拶の約束は、調停委員の勧説により上告人が承諾したことで成立しており、これが履行されない以上、被上告人が同居義務を果たさないとしても、被上告人の責に帰すべき事由による不履行とはいえない。2. 農地転用許可の欠如について、被上告人が明示的に争わず、弁論の全趣旨からも争った形跡がない以上、裁判所がこれに反して「登記があるから許可があった」と推認することは、不利益陳述の拘束力(自白)に抵触し、審理不尽の違法がある。
結論
1. 調停に関する口頭の約束を前提とした判断については正当として上告を棄却。2. 農地転用許可の有無に関する事実認定については、自白の法理に反する違法があるため、原判決を破棄し、当該部分を差し戻す。
実務上の射程
1. 調停条項の解釈において、調書外の合意が履行の正当性を左右する抗弁として機能することを示した。2. 登記の存在から実体法上の有効要件(知事許可等)を推定する実務上の慣行よりも、民事訴訟法上の自白の拘束力が優先されることを確認する事案として重要である。
事件番号: 昭和28(オ)1345 / 裁判年月日: 昭和30年12月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】調停の成立において、契約の要素となるべき事項について当事者の認識に相違があり、その点に相違があれば調停に応じなかったであろうと認められる場合には、要素の錯誤としてその効力を否定することができる。 第1 事案の概要:本件では調停の成立に際し、被上告人らにおいて、対象となる立木が「杉」のみであることを…
事件番号: 昭和38(オ)1382 / 裁判年月日: 昭和39年9月25日 / 結論: 棄却
民事調停法第一六条は、合意成立の際調停調書が作成されていることを要求しているものではない。
事件番号: 昭和32(オ)1020 / 裁判年月日: 昭和36年12月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代位権限を欠く者によって行われた不動産登記であっても、その登記が登記義務者の真実の意思に合致するものである場合には、当該登記の抹消を求めることはできない。 第1 事案の概要:上告人と第一審被告a町との間で、本件山林の表示欄の段別(地積)を減少させる旨を含む調停(調停条項1項、2項)が成立した。一方…