一 調停において、当事者の一方が相手方に譲渡することを約した特定の土地が、当時他人の所有であつたからとて、単にそれだけでは、右調停は履行不能により無効であるということはできない。 二 一旦、調停の成立した法律関係につきその後再度の調停申立がなされ裁判所が戦時民事特別法第一九条、金銭債務臨時調停法第七条による調停に代わる裁判をなし、さきの調停の内容を変更した場合、たとえ右裁判の内容が不当であつたとしても、これに対しては即時抗告をもつて争うのは格別、かかる手続によらないで右裁判を当然無効であるということはできない。 三 当事者が、和解において譲歩の方法として係争物に関係なき物の給付を約することは、和解の本質に反しない。
一 調停において他人の所有に属する土地の譲渡を約した場合と調停の効力 二 再度の調停申立に基きさきに一旦成立した調停の内容と異なる「調停に代わる裁判」をした場合と右裁判の効力 三 和解において係争物に関係なき物の給付を約するのは和解の本質に反するか
民法559条,民法560条,民法561条,民法562条,民法695条,戦時民事特別法(昭和17年法律63号)19条,金銭債務臨時調停法(昭和7年法律26号)7条,金銭債務臨時調停法(昭和7年法律26号)9条
判旨
調停による他人の所有に属する物の譲渡契約は、他人の物であることをもって直ちに履行不能による無効とはならず、また和解において係争物以外の給付を約することも有効である。
問題の所在(論点)
1.他人の所有に属する特定物の譲渡を約した調停条項は、履行不能として無効となるか。 2.和解(調停)において、係争物以外の給付を約することは認められるか。
規範
調停は私法上の和解の性質を有し、有償契約に準じて民法の売買の規定が準用される(民法559条)。したがって、他人の所有に属する物の譲渡を約した場合でも、義務者はこれを取得して相手方に移転すべき義務を負い(同560条)、特段の事情がない限り履行不能により当然に無効とはならない。また、和解における譲歩の方法には法律上の制限はなく、係争物に関係のない物の給付を約することも有効である。
重要事実
上告人と被上告人は、第一次調停において、上告人が被上告人に対し特定の土地を無償譲渡することを約した。しかし、当該土地の一部は当時上告人の所有ではなく第三者の所有であった。さらに、上告人は当該調停において係争物以外の土地の譲渡も約していた。上告人は、他人の物の譲渡を約した点につき履行不能により調停は無効であること、および係争物以外の譲渡を約した点は和解の本質に反し無効であることを主張して、その効力を争った。
あてはめ
1.本件の無償譲渡の合意は和解契約の内容としてなされたものであり、その性質は有償契約に準じる。民法560条等の規定に照らせば、他人の物の譲渡契約であっても、義務者がその所有権を取得して移転する義務を負うにとどまり、当然に履行不能とはいえない。本件では、上告人は単に他人の所有であった事実を主張するのみで、譲渡が客観的に不能と認められるべき特別の事情を主張立証していない。 2.和解は当事者の譲歩によって争いを止める契約であり、その譲歩の方法に制限はない。本件で係争物以外の土地を譲渡する旨の合意は、紛争解決のための譲歩の方法としてなされたものであり、和解の本質に反しない。
結論
他人の物の譲渡を約した調停も、取得移転の義務を負うものとして有効であり、また係争物以外の給付を約することも和解の自由な譲歩の範囲内として有効である。
実務上の射程
他人の権利の売買(民法560条)の規定が、調停や和解といった契約にも広く準用されることを示した。また、和解契約における「譲歩」の内容が係争対象に限定されないことを明示しており、処分権の範囲内であれば柔軟な解決内容を盛り込める実務上の根拠となる。
事件番号: 昭和28(オ)1345 / 裁判年月日: 昭和30年12月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】調停の成立において、契約の要素となるべき事項について当事者の認識に相違があり、その点に相違があれば調停に応じなかったであろうと認められる場合には、要素の錯誤としてその効力を否定することができる。 第1 事案の概要:本件では調停の成立に際し、被上告人らにおいて、対象となる立木が「杉」のみであることを…
事件番号: 昭和48(行ツ)4 / 裁判年月日: 昭和50年6月27日 / 結論: 棄却
訴訟事件について和解の権限を有する訴訟代理人は、右事件が調停に付された場合、当該調停についても当然に代理権を有する。
事件番号: 昭和23(オ)127 / 裁判年月日: 昭和25年3月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】調停条項の解釈にあたっては、申立の趣旨、調停に至る経緯、および調停成立後の条件等を総合的に考慮して、その効力が及ぶ対象範囲を確定すべきである。 第1 事案の概要:被上告人が上告人に対し、居住部分全部の明渡しを求めて調停を申し立てた。当時、二階部分(七坪)は第三者Dが被上告人から直接賃借して居住して…