判旨
土地収用法における損失補償は、近傍類地の取引価格等を考慮した客観的な相当額を意味し、所有者の精神的損害や生存権保障の観点からの加算を包含するものではない。
問題の所在(論点)
1. 土地収用法に基づく補償額の算定において、近傍類地の取引価格を考慮すべきか。2. 憲法および土地収用法が求める補償に、精神的損害の補償や生存権保障の観点からの加味が含まれるか。
規範
憲法29条3項の「正当な補償」および土地収用法における損失補償は、収用される財産の客観的な市場価値(近傍類地の取引価格等を考慮した相当価格)を補償することを指す。所有者の受ける精神的損害や、生存権保障の観点に基づく生活補償的要素は、当然には補償の内容に含まれない。
重要事実
上告人の所有する土地が土地収用法の規定に基づき収用された際、収用審査会が決定した補償額について、上告人が不当に低額であると主張して争った。上告人は、近傍類地の取引価格が適切に考慮されていないこと、および土地収用に際しては所有者の精神的損害や生存権保障を考慮した金額を加味すべきであると主張して上告した。
あてはめ
原審は、本件土地が宅地不適当であることを認定した上で、純農地代や準宅地代、さらに近傍類地の取引価格を証拠に基づいて斟酌し、坪当たりの補償額を算定している。この算定過程は土地収用法72条の趣旨に沿うものであり適法である。また、土地収用法上の補償概念に精神的損害や生存権保障の観点を含めるべきとの主張は、同法の解釈として到底採用し得ない。
結論
本件の補償額算定に違法はなく、精神的損害等の加算を認めなかった判断は正当である。したがって、本件上告は棄却される。
実務上の射程
憲法29条3項の「正当な補償」の意義(相当補償説)を基礎づける判例である。司法試験においては、財産権の収用に伴う補償の範囲が問題となる場面で、客観的価値の補償で足りること、および生活補償・精神的補償の要否を論ずる際の否定的な根拠として引用する。
事件番号: 平成10(行ツ)158 / 裁判年月日: 平成14年6月11日 / 結論: その他
土地収用法71条は,憲法29条3項に違反しない。
事件番号: 昭和54(行ツ)129 / 裁判年月日: 昭和58年9月8日 / 結論: 破棄自判
収用委員会に対する収用裁決取消請求の訴えと起業者に対する違法な収用地の形状の変更等を理由とする不法行為上の損害賠償請求等の訴えとが併合して提起されたのち、土地収用法一三三条一項所定の期間経過後に、同条所定の損失の補償に関する訴えが予備的に追加された場合において、右損害賠償請求等の主位的請求は右裁決取消請求の関連請求とし…
事件番号: 昭和25(オ)163 / 裁判年月日: 昭和30年1月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法29条3項の「正当な補償」とは、必ずしも常に市場価格と合致することを要せず、公共の利益等の諸般の事情を考慮して算定される合理的相当な額をいう。農地改革における買収対価の規定は、当該目的のために合理的な範囲内にある限り、同項に反しない。 第1 事案の概要:自作農創設特別措置法に基づき、上告人が所…