一 土地収用法一三三条所定の損失補償に関する訴訟において、裁判所は、収用委員会の補償に関する認定判断に裁量権の逸脱濫用があるかどうかを審理判断するのではなく、裁決時点における正当な補償額を客観的に認定し裁決に定められた補償額が右認定額と異なるときは、これを違法とし、正当な補償額を確定すべきである。 二 被収用者は、土地収用法一三三条所定の損失補償に関する訴訟において、正当な補償額と権利取得裁決に定められた補償額との差額のみならず、右差額に対する裁決に定められた権利取得の時期からその支払済みまで民法所定の年五分の利率に相当する金員を請求することができる。
一 土地収用法一三三条所定の訴訟における補償額についての審理判断の方法 二 被収用者が土地収用法一三三条所定の訴訟において補償金増額分に対する収用の時期以降の法定利率相当の金員を請求することの可否
土地収用法48条1項,土地収用法71条,土地収用法88条,土地収用法133条,民法404条,民法419条
判旨
土地収用法における損失補償額の決定に収用委員会の裁量権はなく、裁判所は客観的な正当補償額を自ら確定すべきである。また、増額された補償額の差額については、権利取得の時期から支払済みまで民法所定の法定利率による遅延損害金が発生する。
問題の所在(論点)
1. 土地収用法に基づく補償額の決定につき、収用委員会に裁量権が認められるか。2. 裁判所が裁決額より高い正当な補償額を確定した場合、その差額分について権利取得時期からの遅延損害金を認めることができるか。
規範
1. 土地収用法における「相当な価格」の補償は、被収用者が近傍において同等の代替地を取得することを可能にする客観的な「完全な補償」を意味する。したがって、補償額の決定につき収用委員会に裁量権はなく、裁量権の逸脱濫用を審理するのではなく、裁判所が証拠に基づき客観的な正当補償額を確定すべきである。2. 補償金増額請求訴訟(同法133条)は、裁決時における正当な補償額を確定し紛争を終局的に解決することを目的とする。被収用者は権利取得の時期に土地の利用権を失う一方、起業者は当該時期に権利を取得して利用可能となるから、正当な補償額との差額につき、権利取得時期から支払済みに至るまでの法定利息相当額を請求できる。
事件番号: 昭和28(オ)1284 / 裁判年月日: 昭和32年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地収用法における損失補償は、近傍類地の取引価格等を考慮した客観的な相当額を意味し、所有者の精神的損害や生存権保障の観点からの加算を包含するものではない。 第1 事案の概要:上告人の所有する土地が土地収用法の規定に基づき収用された際、収用審査会が決定した補償額について、上告人が不当に低額であると主…
重要事実
土地収用法の規定に基づき土地が収用されたが、被収用者が裁決で定められた補償額に不服を抱き、起業者を被告として補償金の増額を求める訴え(形式的当事者訴訟)を提起した。また、本件では土地上の小作権の存否に争いがあり、起業者が補償金を供託していたが、裁判所が認定した小作権割合が裁決時と異なったため、底地権者に対する補償額が不足する結果となった。この不足分(増額分)に対する遅延損害金の可否が争点となった。
あてはめ
1. 憲法29条3項の「正当な補償」は、収用の前後で財産価値を等しくさせる完全な補償を要する。補償額は客観的に認定されるべき性質のものであり、不確定概念である「相当な価格」等の文言から裁量権を認める余地はない。2. 権利取得時期において被収用者は対価を得ないまま権利を失い、起業者は利益を享受し始める。この不均衡を是正するため、裁決で支払われるべきであった正当な額との差額は、権利取得時点から遅滞に陥っていると評価できる。供託されている場合であっても、本件のように底地権相当額の不足分は別個の債務であり、法定利率による損害金が付されるべきである。
結論
1. 収用委員会に裁量権はなく、裁判所は独自の証拠調べに基づき正当な補償額を確定すべきである。2. 正当な補償額と裁決額との差額については、権利取得時期から年5分の割合による遅延損害金の支払を命じることができる。
実務上の射程
損失補償額に関する裁決の性質を「裁量処分」ではなく「法規拘束的処分」と位置づける。行政法上の形式的当事者訴訟において、裁判所が裁決に拘束されずフルレビュー(完全な審理)を行う根拠となる。また、補償金増額の判決を得る際、遅延損害金を併せて請求する実務の根拠となる。
事件番号: 平成10(行ツ)158 / 裁判年月日: 平成14年6月11日 / 結論: その他
土地収用法71条は,憲法29条3項に違反しない。
事件番号: 昭和54(行ツ)129 / 裁判年月日: 昭和58年9月8日 / 結論: 破棄自判
収用委員会に対する収用裁決取消請求の訴えと起業者に対する違法な収用地の形状の変更等を理由とする不法行為上の損害賠償請求等の訴えとが併合して提起されたのち、土地収用法一三三条一項所定の期間経過後に、同条所定の損失の補償に関する訴えが予備的に追加された場合において、右損害賠償請求等の主位的請求は右裁決取消請求の関連請求とし…