旧都市計画法(大正八年法律第三六号)一六条一項に基づき土地を収用する場合、被収用者に対し土地収用法七二条(昭和四二年法律第七四号による改正前のもの)によつて補償すべき相当な価格を定めるにあたつては、当該都市計画事業のため右土地に課せられた建築制限を斟酌してはならない。
旧都市計画法(大正八年法律第三六号)一六条一項に基づき土地を収用する場合に被収用者に補償すべき価格と当該都市計画事業のため右土地に課せられた建築制限
土地収用法(昭和42年法律第74号による改正前のもの)72条,旧都市計画法(大正8年法律第36号)16条1項
判旨
土地収用における損失補償は、被収用者が近傍で同等の代替地を取得し得る「完全な補償」を要するため、都市計画に基づく建築制限がある場合でも、当該制限がないものとした裁決時の価格を基準とすべきである。
問題の所在(論点)
土地収用に伴う損失補償額(土地収用法旧72条)の算定にあたり、都市計画法や建築基準法に基づく建築制限がある場合、その制限を考慮した価格(制限付きの価格)で評価すべきか、あるいは制限がないものとした価格(更地価格等)で評価すべきか。
規範
土地収用法(旧72条)が定める損失の補償は、特定の公益事業による「特別な犠牲」に対し、収用の前後で財産価値を等しくならしめる「完全な補償」を目的とする。したがって、金銭補償の場合は近傍で同等の代替地を取得するに足りる金額を要する。都市計画事業等による建築制限がある土地を収用する場合、憲法29条3項の趣旨及び同法の立法趣旨に照らし、補償すべき相当な価格とは、当該建築制限を受けていないとすれば裁決時において有するであろうと認められる価格をいう。
重要事実
上告人らが所有する土地について、倉吉都市計画の街路用地とする決定がなされ、建築基準法上の建築制限が課された。その後、土地収用法に基づき当該土地の収用が決定され、収用委員会は、上記建築制限を受けた状態を前提とした鑑定評価に基づき損失補償額を決定(本件裁決)した。上告人らは、建築制限による減価を考慮した評価額は不当に低いとして争ったが、原審は制限を受けた土地としての評価で足りると判断した。
事件番号: 平成10(行ツ)158 / 裁判年月日: 平成14年6月11日 / 結論: その他
土地収用法71条は,憲法29条3項に違反しない。
あてはめ
土地収用法の目的は、被収用者に近傍の代替地取得を可能にすることにある。本件土地は都市計画決定により建築制限を受けているが、この制限に基づく損失自体に独立の補償規定がないからといって、収用時に制限後の価格で評価することは、被収用者に不当に低い補償を強いることになる。また、近傍の制限を受けていない土地所有者と比較して著しく不平等な結果を招く。したがって、本件土地が街路用地としての制限を受けていない状態の価格を基準に算出されたとはいえない本件裁決は、補償の趣旨に反する。
結論
都市計画制限等がある土地の収用補償額は、その制限がないものとした裁決時の客観的価格によるべきであり、原判決の判断には土地収用法72条の解釈の誤りがあるため、破棄・差し戻しを免れない。
実務上の射程
憲法29条3項の「正当な補償」の具体的内容を「完全な補償」と解するリーディングケースである。答案上は、都市計画制限のような公共目的の制約による減価を被収用者に負担させることの是非が問われる場面で、本規範を引用する。なお、本判決は『建築制限に基づく損失を独立に補償することを要しない』点も指摘しており、収用時点での一体的評価を求める実務の指針となっている。
事件番号: 昭和36(オ)1068 / 裁判年月日: 昭和38年12月19日 / 結論: 棄却
特別事情による損害か否かは法律問題である。
事件番号: 昭和28(オ)1284 / 裁判年月日: 昭和32年3月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地収用法における損失補償は、近傍類地の取引価格等を考慮した客観的な相当額を意味し、所有者の精神的損害や生存権保障の観点からの加算を包含するものではない。 第1 事案の概要:上告人の所有する土地が土地収用法の規定に基づき収用された際、収用審査会が決定した補償額について、上告人が不当に低額であると主…
事件番号: 昭和26(オ)719 / 裁判年月日: 昭和28年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物収去土地明渡請求が権利の濫用に該当するか否かは、個別の事案における事実関係に基づいて判断される。本件のような事実関係の下では、当該請求が民法1条3項にいう権利の濫用に当たらないことは明白である。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人による本件建物の収去及び土地の明渡請求について争い、その請求が…