判旨
作成名義人の否認がある文書について、裁判所が作成名義人以外の者によって作成されたものであると認定した上で、その成立の真正を否定し証拠力を排斥することは適法である。
問題の所在(論点)
文書の作成名義人が作成の事実を否認している場合に、裁判所が他の証拠に基づき当該文書が第三者によって作成されたと認定し、その証拠力を否定することは、経験則に違背するか。
規範
民事訴訟において、書証の成立の真正が争われている場合、裁判所は自由心証に基づき、提出された証拠を総合して当該文書が作成名義人の意思に基づいて作成されたか否かを判断する。作成名義人とされる者が作成を否定している状況下で、他者が作成した事実が認められる場合には、その文書の真正な成立は否定される。
重要事実
上告人らが証拠として提出した家屋売渡証(乙第6号証および乙第7号証)について、その作成名義人とされているAおよびDは、自らこれを作成した事実を否認した。原審は、証拠調べの結果、これらの書面は上告人らの先代であるEによって作成されたものであると認定し、書面としての真正な成立を認めなかった。
あてはめ
本件において、原判決は挙示の証拠に照らし、乙第6号証および乙第7号証がAまたはDによって作成されたものではなく、むしろ上告人らの先代Eにおいて作成されたものであると認定している。作成名義人の否認がある中で、客観的に他者の作成が認められる以上、これを真正に成立した文書と認めないことは論理的整合性を有しており、経験則に違背するような不合理な事実認定とはいえない。
結論
原審の事実認定に違法はなく、当該文書の真正な成立を否定した判断は維持されるべきであるため、上告を棄却する。
実務上の射程
事件番号: 昭和35(オ)848 / 裁判年月日: 昭和37年11月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】請負契約により新築された建物の所有権帰属に関し、請負人が代金未払の状態で建物を注文者に引き渡した場合、建物の所有権は注文者に移転する。また、実態のない所有権移転登記が通謀虚偽表示に該当する場合、当該登記に基づく権利主張は認められない。 第1 事案の概要:請負人EおよびFは、注文者Dから本件建物の建…
民事訴訟法228条1項(文書の成立)に関連する実務において、形式的証拠力が争われる際の判断枠組みを示す。名義人が作成を否認し、かつ偽造の蓋然性が高い事情(他者の作成など)が認定される場合、裁判所が自由心証により真正を否定することを肯定する事例である。
事件番号: 昭和25(オ)251 / 裁判年月日: 昭和28年6月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が人証と書証を総合して事実認定を行うことは、個々の証拠が直接的に特定の事実を証明するに足りない場合であっても、自由心証主義の範囲内として許容される。 第1 事案の概要:上告人は、本件売買契約について証書の作成や代金の受取証が存在しないことを指摘。原審が認定の根拠とした人証は被上告会社の利害関…
事件番号: 昭和34(オ)868 / 裁判年月日: 昭和35年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の所有権の帰属に関し、家賃取立の実績等の事実が認められる場合であっても、他の証拠により導かれる所有権の推定を直ちに覆すに足りるものではない。 第1 事案の概要:本件建物の所有権の帰属をめぐり、上告人(控訴人)は、自らが家賃の取立を行ってきた事実などを主張し、証拠を提出して自らの所有を主張した。…
事件番号: 昭和25(オ)141 / 裁判年月日: 昭和28年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】私文書は、本人又はその代理人の署名又は捺印があるときは、民事訴訟法第228条第4項(旧326条)により、その成立が真正であるものと推定される。 第1 事案の概要:本件家屋の売買代金残額2000円の授受等をめぐる紛争において、証拠として提出された私文書(甲第8号証の1、2)について、上告人の署名捺印…
事件番号: 昭和33(オ)290 / 裁判年月日: 昭和34年1月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白が成立した場合には、その自白が真実に反し、かつ錯誤に基づいたものであることを証明しなければ、原則としてこれを取り消すことができない。 第1 事案の概要:原告(被上告人)が被告(上告人)に対し、建物所有権取得を目的とした代物弁済予約の完結を主張した事案である。第一審において、被告は当初、…