判旨
建物の所有権の帰属に関し、家賃取立の実績等の事実が認められる場合であっても、他の証拠により導かれる所有権の推定を直ちに覆すに足りるものではない。
問題の所在(論点)
建物の所有権の帰属を認定するにあたり、家賃の取立実績という事実の主張・立証が、他の証拠に基づく所有権の推定を覆すに足りる判断要素となるか。
規範
特定の権利(所有権)の帰属が争われる場合、裁判所は、当事者が提出した全証拠に基づき、経験則に照らして自由な心証によって事実を認定する(自由心証主義)。相手方の所有を推認させる有力な証拠(登記や取得原因等)が存在する場合、その推定を覆すには、それを上回る有力な反証が必要となる。
重要事実
本件建物の所有権の帰属をめぐり、上告人(控訴人)は、自らが家賃の取立を行ってきた事実などを主張し、証拠を提出して自らの所有を主張した。これに対し、原審は被上告人(被控訴人)に所有権が属することの推定を覆すには至らないと判断し、上告人の主張を退けたため、上告人が審理不尽を理由に上告した事案である。
あてはめ
上告人は家賃取立の事実を主張し、証拠を提出しているが、原審によれば、かかる事実があったとしても、それのみで本件建物が上告人の所有に帰すると断定することはできない。原判決が「全証拠によっても、未だ本件建物が被上告人の所有に属することの推定を覆し得ない」とした判断は、証拠に対する自由な評価に基づくものであり、審理不尽の違法はないと解される。
結論
上告棄却。家賃取立等の事実のみでは、相手方の所有権の推定を覆すに足りないとした原審の判断に違法はない。
実務上の射程
所有権の帰属が争われる場面において、管理実績(家賃取立等)は一要素に過ぎず、登記や原取得等の強力な推定を直ちに覆すものではないことを示す。司法試験の答案上は、不動産所有権の帰属や、代理占有・自主占有の判断において、外形的事実(管理態様)と権利推定の強弱を比較衡量する際の考慮要素として活用できる。
事件番号: 昭和33(オ)860 / 裁判年月日: 昭和35年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】請求の主要な争点である事実が認められない場合には、その余の事実関係を確定することなく直ちに請求を棄却することができる。裁判所が主要事実の存否につき証拠を検討し、これを認められないと判断した過程に自由心証の逸脱がなければ、判決に違法はない。 第1 事案の概要:上告人は被上告人に対し、本件家屋を買い受…
事件番号: 昭和35(オ)848 / 裁判年月日: 昭和37年11月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】請負契約により新築された建物の所有権帰属に関し、請負人が代金未払の状態で建物を注文者に引き渡した場合、建物の所有権は注文者に移転する。また、実態のない所有権移転登記が通謀虚偽表示に該当する場合、当該登記に基づく権利主張は認められない。 第1 事案の概要:請負人EおよびFは、注文者Dから本件建物の建…
事件番号: 昭和25(オ)251 / 裁判年月日: 昭和28年6月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が人証と書証を総合して事実認定を行うことは、個々の証拠が直接的に特定の事実を証明するに足りない場合であっても、自由心証主義の範囲内として許容される。 第1 事案の概要:上告人は、本件売買契約について証書の作成や代金の受取証が存在しないことを指摘。原審が認定の根拠とした人証は被上告会社の利害関…
事件番号: 昭和31(オ)858 / 裁判年月日: 昭和33年8月28日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】当事者が書証を提出し、かつ本人尋問においてその書証の内容に合致する陳述をした場合には、弁論の全趣旨から判断してその事実を主張したものと解するのが相当である。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、上告人(被告)の父との間で本件宅地30坪の売買契約を締結したと主張した。これに対し上告人は契約の存在を…
事件番号: 昭和32(オ)787 / 裁判年月日: 昭和35年12月27日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】会社の不動産を一時的に個人名義に移し、直ちに返還する旨の口頭約束は、他人の面目を立てるという動機のみでは取引通念上不自然であり、特段の事情がない限り、安易に契約の成立を認めることはできない。 第1 事案の概要:被上告会社の旧社長であった上告人と新社長との間で、決算書から脱漏していた本件建物の所有権…